論文紹介 | 監修:財団法人癌研究会附属病院 藤田力也(消化器内科・部長/内視鏡部・部長)山口俊晴(消化器外科・部長)

7月

irinotecan抵抗性を示す転移性結腸直腸癌に対するcetuximab単独療法およびcetuximab+irinotecan併用療法

David Cunningham, M.D. et al., N Engl J Med 351(4), 2004 : 337-345

 上皮増殖因子受容体 (epidermal growth factor receptor : EGFR)はEGFやTGFαなどの増殖因子が結合する受容体で、結腸直腸癌細胞では一般に過剰発現しており、細胞増殖や血管新生、浸潤や転移の誘導に関与している。cetuximabはEGFRを特異的に阻害するモノクローナル抗体である。この研究では、irinotecanに抵抗性を示す転移性結腸直腸癌に対してcetuximab単独療法とcetuximab+irinotecan併用療法の有効性を比較した。
 対象は、irinotecanベースの治療後3ヵ月以内または治療中に病状が進行した329人で、cetuximab単独療法(111人)およびcetuximab+irinotecan併用療法(218人)に無作為に割り付けた。cetuximab単独群で病状進行の場合にはirinotecanの追加を許容した。評価項目はCT、MRI上の腫瘍縮小効果および無増悪期間、生存期間、副作用であった。
 その結果、奏効率は併用群22.9%(95%CI:17.5〜29.1)で、単独群の10.8%(95%CI:5.7〜18.1)よりも有意に高かった(p=0.007)。無増悪期間の中央値も併用療法群で有意に長かった(4.1ヵ月vs 1.5ヵ月、log-rank検定 p<0.001)。生存期間の中央値は併用群8.6ヵ月、単独群6.9ヵ月であった(p=0.48)。副作用は併用群で高頻度であったが、重症度や発生頻度はirinotecan単独療法で予想されるものと同程度であった。cetuximabは、irinotecanベースの治療に抵抗性を示す結腸直腸癌患者に対して、単独もしくはirinotecanとの併用により臨床的に有意な抗腫瘍活性を有すると考えられた。

考察

早急に進めるべき本邦でのcetuximabの臨床試験

 cetuximabはEGFR阻害薬で、vascular endothelial growth factor (VEGF)阻害薬bevacizumabとともに、結腸直腸癌に対する分子標的療法薬剤として、抗癌剤抵抗性の症例に対する有効性が注目されている。本研究のcetuximabの奏効率22.9%、生存期間中央値8.6ヵ月は決して十分な成績とは言えないが、抗癌剤抵抗性の症例に対して積極的に試みる価値があることを示している。cetuximabもbevacizumabも米国FDAでは結腸直腸癌の治療薬として承認済みであるが、本邦においては、欧米の標準的治療薬であるoxaliplatinやcapecitabine同様に未承認である。結腸直腸癌化学療法の選択肢を増やすために、これらの薬剤の本邦での臨床試験の速やかな遂行が望まれる。

(消化器外科・大矢雅敏)

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