血清D-dimer値はCEA値に比べ、転移性結腸直腸癌患者の全生存率および
その疾患予後をより反映する併用療法:多施設共同第3相RCT
Kimberly Blackwell, M.D. et al., Cancer 101(1) 2004 : 77-82
フィブリン形成は腫瘍脈管形成および腫瘍の転移、浸潤様式に重要な役割を果たしていると考えられている。このフィブリンがプラスミノーゲンによって溶解される過程で、分解産物としてD-dimerが生じる。
D-dimerは、肺癌、前立腺癌、頭頚部癌、結腸直腸癌などの固形癌患者においても高値を認めることがある。
本研究は、転移性結腸直腸癌患者におけるD-dimer値測定の有用性を明らかにするものである。対象は、bevacizumab(5mg/kg or 10mg/kg)+leucovorin(LV)/5-fluorouracil(5-FU)
vs LV/5-FU (Roswell Park regimen)の第II相比較試験に登録された転移性結腸直腸癌の患者104名である。患者の年令中央値は61歳で、男性:43%、女性:57%、PS-0:59%、PS-1:40%、PS-2:1%であった。転移巣の数は、1カ所:58%、2カ所:28%、3カ所以上:14%で、転移部位は肝:78%、肺:33%、リンパ節:22%、骨:4%、腹水:5%であった。D-dimer測定は臨床試験登録時、各サイクルの治療開始時、治療終了時(疾患の進行または試験終了時)に行った。また、同時に癌胎児性抗原(CEA)の測定も行った。治療前のD-dimer測定は104人に行い、98人で複数回測定された(平均測定回数4.24回)。治療前にCEAを測定できなかった2人の患者は除外した。登録時104人の患者のうち86人(88%)でD-dimer値の上昇を認め、102人のうち86人(84%)でCEAの上昇を認めた。D-dimerの基準値(ベースライン値)は、CEA(P=0.002)、アルブミン値(P=0.002)、腫瘍量(P=0.003)、転移個数(P=0.04)に相関していた。治療過程におけるD-dimer測定の中央値は133.2ng/ml(正常値<20ng/ml)であり、生存率と強い相関関係を認めた(P=0.008)。しかし、無増悪生存率との相関関係はなかった(P=0.12)。また、104人のうち66人で試験期間中に疾患の増悪を認め、同時にD-dimerあるいはCEAが最大値を示したものの割合はそれぞれ84%、71%であり、疾患の進行との相関関係はCEAよりD-dimerで強かった。D-dimerの基準値は、生存率の強い予測因子であった(単変量解析:P=
0.008、多変量解析:P= 0.03)。全体として、bevacizumab(5mg/kg)治療及び、D-dimerの基準値は生存率の強い予測因子であった(P<0.05)。
以上の結果から、D-dimer 値は予後の判定に組み込まれるべきであり、antiangiogenic作動薬を用いた治療を受ける患者に役立つ生物マーカーとなる可能性がある。
antiangiogenic作動薬治療のマーカーとして期待されるD-dimer
この研究は、D-dimer 値と生存率の直接相関を評価した最初のprospective studyである。D-dimer 値は生存率と強い相関関係を認めたが、無増悪生存率との相関関係は認めなかったことは興味深い。この理由については、フィブリノーゲンやプラスミノーゲンなどの凝集蛋白を解析し、凝固系と腫瘍総量や進行度との生物学的関係を検討することで明らかにされると考えられる。また、第III相比較試験などのより多くの患者データを長期に渡って評価することで、D-dimer値測定がantiangiogenic作動薬を用いた治療への反応を予測するのに用いられるようになると期待される。
(内科・浦上尚之)