論文紹介 | 監修:財団法人癌研究会附属病院 藤田力也(消化器内科・部長/内視鏡部・部長)山口俊晴(消化器外科・部長)

9月

BCL10もしくはNF-κBの発現は胃のhigh grade gastric MALTリンパ腫の初期段階におけるHelicobacter pylori非依存型を予測する

Sung-Hsin Kuo, et al., J Clin Oncol 22(17) , 2004 : 3491-3497

 BCL10もしくは、NF-κBの核における発現がステージIEのhigh grade gastric MALT(以下HGM)リンパ腫におけるHelicobacter pylori(以下H. pylori)非依存型を予測しうるかについて検討した。1995年6月から2002年6月までに22例のステージIEのHGMリンパ腫に対し、H. pyloriの除菌を施行した前向き調査である。
 治療前にBCL10とNF-κBの発現をパラフィン切片にて、免疫組織学的に検討した。t(11;18)(q21;q21)転座はRT-PCR にてAPI2-MALT1キメラ遺伝子の発現により認識した。除菌治療後4〜6週間後に内視鏡検査を施行した。その後は組織学的に再発が認められるまで、6〜12週毎に内視鏡検査を行った。
 22例中14例がH. pylori依存、8例が非依存であった。14例の患者は57.5ヵ月(中央値)経過観察し、組織学的に寛解した。すべての患者の細胞質にはBCL10の発現が見られた。BCL10の発現はH. pylori非依存の8例中7例(87.5%)に認められたが、H. pylori依存の14例にはみられなかった。BCL10の発現が見られた7症例では、全例NF-κBの発現があった。これに対し、BCL10の発現がない15例ではわずか2例にNF-κBの発現があった。NF-κBの発現はH. pylori依存型より、H. pylori非依存型で著しく高かった。またAPI2-MALT1キメラ遺伝子は8例のH. pylori非依存MALTリンパ腫のうち1例(12.5%)に認められた。BCL10もしくは、NF-κBの核発現はHGMのH. pylori非依存症例の予測ができる。両マーカー共に発現している例ではH. pylori非依存型の頻度はより高かった。

考察

期待されるHGMリンパ腫 のH. pylori非依存の予測のための
新たな細胞分子学的診断法

 BCL10はMALTリンパ腫の5%以下にあるt(1;14)(p22;q32)転座点から見出された遺伝子である。またBCL10にはNF-κBを活性化することが知られている。この検討では、従来H. pylori非依存の重要なマーカーであるAPI2-MALT 1は、H. pylori非依存のHGM1例にのみ認められた。従来HGMはLGM(low grade gastric MALT)の一部が転換したものと信じられてきた。しかし最近では、LGMに共存したHGMの部分が独立して発展したものといわれている。初期HGMの大半の部分で、H. pylori依存性を残しており、H. pyloriの除菌で治る可能性があることがすでに報告されている。しかしH. pyloriの除菌に対する反応はlow gradeで良好なのに対しHGMの初期段階では、H. pyloriの除菌に反応しなければ、急速に進行する。したがって、HGM のH. pylori非依存を予測できる、細胞分子学的な新しい診断法が必要だと考えられる。

(消化器内科・藤崎順子)

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