TNMステージII結腸・直腸癌における切除リンパ節数と予後との関係
Sarli L, et al., Eur J Cancer. 2005; 41(2): 272-279
結腸・直腸癌においてリンパ節転移陰性の診断は予後良好と捉えるべきであるが、TNMステージII患者の転帰はその限りではない。イタリアの単独施設において治癒切除が施行された、ステージII結腸・直腸癌患者の予後における切除リンパ節数の影響がプロスペクティブに検討された。
対象は、1980年1月から2000年4月までに結腸・直腸癌手術が行われたステージII患者、および対照としてステージIII患者である。手術は一定のプロトコールで実施し、治癒切除は全例ともリンパ節郭清を含めて行った。近位結腸部の腫瘍は回結腸部、右結腸部、中結腸動脈根部のリンパ節まで、遠位結腸部と直腸部の腫瘍は下腸間膜動脈根部のリンパ節まで切除範囲を拡大した。1990年以降、ステージIII患者には術後補助化学療法を施行した。TNM分類のステージII患者625例およびステージIII患者415例の組織学的治癒切除例を解析対象とし、80歳未満の患者についてKaplan-Meier曲線とlog-rank検定を用いて生存率を評価した。多変量解析にはCox回帰モデルを用いた。
平均切除リンパ節数はステージII患者15.15個、ステージIII患者16.7個であった。ステージII患者のリンパ節数は、患者の年齢(p=0.04)、性別(p=0.02)、腫瘍悪性度(p<0.0001)、腫瘍占居部位(p<0.0001)、広域切除の必要性(p<0.0001)と関連し、ステージIII患者では患者の年齢(p<0.0001)、腫瘍悪性度(p=0.02)、および腫瘍占居部位(p=0.002)と関連した。ステージII患者480例においてリンパ節数の減少はハザード比上昇と関連したが、ステージIII患者345例には関連性はみられなかった。転移陽性リンパ節1〜3個のステージIII患者の5年生存率(52.6%)は、検索リンパ節が9個以下のステージII患者(51.3%)の5年生存率と同等であった。
これらの結果は、切除リンパ節数がTNMステージII結腸・直腸癌患者の予後因子であることを明らかにしている。切除されたリンパ節数の少ないステージII患者は予後不良であり、このような患者には定期的に術後補助化学療法を施行すべきである。
大腸癌の予後と宿主免疫
近年、免疫臓器としての腸管の機能解析が進みつつある。広大な面積を占める腸管粘膜は実にダイナミックな免疫活動を行っているユニークな場所であり、異種抗原や刺激物質、腫瘍などに対して最前線の防御機構としての役割を果たしている。本論文はStageII大腸癌の予後が切除リンパ節数に依存することを示した論文であり、宿主免疫と関連させて論じている。転移リンパ節数が病期を反映するとした報告は多いが、リンパ節転移のない状態でも切除リンパ節数が予後と関連する事実を報告した。その機序の解明が興味深いが、近年の分子生物学の進歩、とりわけVEGF-CやIELあるいはNK、NKT細胞の機能解析がその扉を開く可能性がある。またマイクロサテライト不安定性との関連も検討課題であろう。切除リンパ節数が宿主免疫を反映するとすれば、患者のフォローアップ計画もテーラーメードにより立案できる可能性がある。大腸癌に対する化学療法の進歩は著しいものがあるが、宿主免疫の研究進展も見逃せない。
監訳・コメント:京都大学大学院医学研究科 小野寺 久
(分子外科学講座腫瘍外科学・助教授)