論文紹介 | 監修:京都大学大学院 医学研究科 坂本純一(疫学研究情報管理学・教授)

3月

転移性結腸・直腸癌に対する手術と強化全身化学療法との併用療法:
第II相試験の結果

Taïeb J, et al., J Clin Oncol. 2005; 23(3): 502-509

 切除可能な転移性結腸・直腸癌患者における手術前後の補助化学療法(MIROX療法:FOLFOX-7→FOLFIRIの交替療法)の併用について、有効性と忍容性を評価した。
 転移部位の完全切除が可能な転移性結腸・直腸癌患者で、年齢18〜80歳、WHO PS 0〜2、骨髄機能および肝機能正常患者47例を適格例として登録した。
 MIROX療法は、FOLFOX-7療法(LV 400mg/m2+oxaliplatin 130mg/m2を120分かけて点滴静注後、FU 2,400mg/m2を46時間かけて持続静注、2週間毎)を6サイクル繰り返し、その後FOLFIRI療法(LV 400mg/m2+irinotecan 180mg/m2を90分かけて点滴静注後、FU 400mg/m2をbolus静注、さらにFU 2,400mg/m2を46時間かけて持続静注、2週間毎)を6サイクル繰り返した。全47例中25例は手術後にMIROX療法(FOLFOX-7療法→FOLFIRI療法)を施行するadjuvant群とし、他の22例はFOLFOX-7療法→手術→FOLFIRI療法を施行するneoadjuvant群とした。
 1例を除く46例に治癒切除を行った。2例は術後化学療法を拒否した。忍容性は概ね良好で、主な毒性はグレード3〜4の好中球減少(13%)、および血小板減少(11%)であった。熱性好中球減少症や出血、および毒性による死亡は認められなかった。2年後のoverall survivalは89%、disease free survivalは47%、disease free期間の中央値は21ヵ月であった。Neoadjuvant群の22例のうち2例がCR、15例がPRであった(全奏効率は77%;95%信頼区間68〜86%)。
 MIROX療法は切除可能な転移性結腸・直腸癌患者に施行可能であり、忍容性も良好で、中央値38ヵ月の追跡期間におけるprogression free survivalおよびoverall survivalは期待をもたせるものであった。現在第III相試験において、転移性結腸・直腸癌に対する本療法とFU+LV療法との比較検討がなされている。

考察

切除可能大腸癌肝転移に対する
三者(oxaliplatin、irinotecan、FU+LV)交替療法の有用性

 大腸癌肝転移に対する化学療法は、切除不能例を対象とした複数の試験の結果、oxaliplatinまたはirinotecanとFU-LVを組み合わせた療法が生存率および奏効率において効果的であることが示されている。しかし、Grade 3/4の血液毒性が45〜80%に認められるなど副作用が高率に認められている。切除可能肝転移例を対象とした本研究においては、これまでの報告と比較して神経毒性を含め毒性は軽減されている。これは、化学療法開始時には癌が限局しているかまたはtumor freeの状態であったことが関与していると考えられる。肝転移に対する治療としてこれまで肝動注、静脈投与の検討が行われてきた。Kemenyらの報告によれば化学療法による死亡はないもののGrade 3/4の副作用が32%に、高度肝障害が20%に認められている。また多くの動注療法の報告において生存率の改善効果が認められていないことや、動注するための高度なテクニックが必要とされること等から、このような全身化学療法に期待が寄せられている。本研究においてneoadjuvant群のFOLFOX-7の奏効率は77%(2例のCRを含む)で、2年生存率、recurrece free survivalともに良好な結果を示しており、phase IIIの結果が待たれる。
 さて、本邦ではoxaliplatinがやっと認可になる。全例報告とFOLFOXのレジメに限定されるため、入院治療が必要となるが、second lineあるいはthird lineの治療法を待ち望む患者・医師にとって朗報となる。先行する欧米では、本研究を含めneoadjuvantとしての有用性の検討が進むと考えられる。

監訳・コメント:群馬大学大学院医学系研究科 浅尾高行
(病態総合外科学・助教授)

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