論文紹介 | 監修:京都大学大学院 医学研究科 坂本純一(疫学研究情報管理学・教授)

4月

局所胃癌に対するpaclitaxelベースの化学放射線療法:
臨床的パラメータではなく病理学的奏効率が患者の転帰を決定する

Ajani JA, et al., J Clin Oncol. 2005; 23(6): 1237-1244

 術前化学放射線療法はR0(治癒)切除率、OS(生存期間)、DFS(無病生存期間)を向上させる可能性が高いため、局所胃癌または胃食道癌患者を対象として、paclitaxelベースの導入化学療法および化学放射線療法が施行され、R0切除率、病理学的奏効率、OS、およびDFSへの影響が検証された。
 Endoscopic ultrasonography(EUS)やlaparoscopyなどにより病期分類された局所胃癌または胃食道癌患者で、TNMステージのT2-3かつN0またはN(+)、およびT1N1の患者を適格例とした。
 5-FU(750mg/m2/日、day 1〜day 5)+paclitaxel(200mg/m2/日、day 1)+cisplatin(15mg/m2/日、day 1〜day 5)による導入化学療法を1サイクル(28日)施行して、腫瘍進行がみられない場合はさらに1サイクル施行し、その後45Gy/25回/5週の放射線照射と5-FU(300mg/m2/日×5日/週)+paclitaxel(45mg/m2/週)療法を5週間施行した。化学放射線療法後に再び病期分類を行い、手術を行った。術後の病理学的所見およびR0切除はOSおよびDFSと相関した。
 41例が試験に登録された。腫瘍はほとんど(83%)が近位部にあり、治療前ステージは85%がT3であった。40例(98%)に手術が施行され、78%はR0切除であった。病理学的著効(pathCR)率は20%、病理学的有効(pathPR:切除標本中の残存癌細胞率<10%)率は15%であった。治療前のパラメータ(性別、腫瘍部位、治療前のTステージまたは治療前のNステージ)はいずれも術後の病理学的奏効率、OS、DFSを予測しなかった。しかしpathCR(p=0.02)、pathCR+pathPR(p=0.006)、R0切除(p<0.001)、および術後のTおよびNステージ(それぞれp=0.01、p<0.001)はOSと相関した。これらのパラメータは、DFSとも有意に相関した。毒性はコントロール可能であった。
 局所胃癌や胃食道癌患者において、術前化学放射線療法後の病理学的奏効率はOSおよびDFSと相関したが、治療前のパラメータは相関しなかった。今後、病理学的奏効率を高め全身的な腫瘍コントロールを向上させるための努力が望まれる。

考察

期待を感じさせるpaclitaxelベースの術前放射線化学療法

 本研究で示された放射線化学療法後の手術成績はわが国での手術単独の成績とさほど変わらないと思われるが、しかし根治手術可能なT2-4胃癌の約50%に再発が起こり、再発胃癌の治癒が得られにくいことから、別の観点より術前化学療法を検討しなければいけない時期に来ていると思われる。5-FU、paclitaxel、CDDP による導入化学療法後のpaclitaxelベースの放射線化学療法は、腫瘍縮小効果とともにradiosensitizerとしての効果を相乗させ得る治療法として非常に期待の持てる治療法である。特に本研究で示されたpathCR 症例は高い奏効率が得られており、病理学的奏効率とOSおよびDFSとが相関しておりとても興味深く思えた。今後は進行胃癌(特に噴門部癌、胃食道接合部癌)に対して放射線化学療法をoption に加える必要があるのではないかと思われるが、病理学的奏効例と非奏効例の見極めが難しく、今後更なる検討を行う必要があると思われた。

監訳・コメント:産業医科大学 永田直幹(消化器・内分泌外科・助教授)

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