結腸・直腸癌患者における5-FU感受性予測因子:正常組織における
thymidylate synthase および methylenetetrahydrofolate reductaseの遺伝子多型
Jakobsen A, et al., J Clin Oncol. 2005; 23(7): 1365-1369
本試験の目的は、5-FU標的酵素thymidylate synthase(TS)および代謝酵素methylenetetrahydrofolate reductase(MTHFR)の遺伝子型と、5-FU感受性の関連について、標準的なbolus 5-FU/LV治療を受けた転移性結腸・直腸癌患者を対象として検討することである。
試験デザインは二相からなり、まず、デンマークで実施された5-FU用量比較試験の被験者(PS 0〜2)のうち、転移性病変の評価が可能であり、かつ小腸から正常組織の病理標本を採取しえた88例について、TSおよびMTHFRの遺伝子型をレトロスペクティブに解析した。次にプロスペクティブ試験として、転移性病変の評価が可能であった患者51例を対象に5-FUを投与するとともに、被験者の全血から抽出したgenomic DNAを解析し、遺伝子型と5-FU感受性の関連をレトロスペクティブ試験の結果と比較した。プロスペクティブ試験の被験者には、進行が認められるまでbolus 5-FU/LV療法(5-FU 500mg/m2 bolus投与後、LV 60mg/m2 を30分かけて静注、day 1およびday 2、2週ごと)を継続し、2ヵ月ごとに奏効率を評価した。
レトロスペクティブ解析の結果、TS 3R/3R 遺伝子型を有する患者の奏効率(52%)は、その他の遺伝子型(2R/2R 型および2R/3R 型)を有する患者に比べて有意に高かった(p=0.03)。また、MTHFR 677 TT 遺伝子型を有する患者の奏効率(67%)は、その他の遺伝子型(677CC 型、677CT 型、および1298AA 型、1298AC 型、1298CC 型)を有する患者に比べて有意に高かった(p=0.04)。さらに、全体の30%を占める、TS 3R/3R 遺伝子型あるいはMTHFR 677 TT 遺伝子型のいずれかを保有する患者は、非保有患者に比べて奏効率が高く(52% vs 25%、p=0.012)、TTPも高かった(中央値、7ヵ月 vs 4ヵ月)。その後実施したプロスペクティブ試験では、レトロスペクティブ試験と同様の結果が得られた。
今回の検討では、bolus 5-FU/LV療法に対して約50%が奏効し、良好なTTPが得られると期待される患者集団(約30%)を、TS 遺伝子およびMTHFR 遺伝子の解析により治療前から予測しうることが示唆された。テーラーメード治療実現のため、これらの遺伝子解析を積極的に実施すべきであろう。
新たなテーラーメード治療の可能性
癌化学療法において遺伝子解析を用いた副作用予測や効果予測がなされ、個別化治療が進みつつある。5-FUの効果予測としては、腫瘍におけるTS 遺伝子あるいは蛋白発現を検討した報告が多く、発現の低下した症例で5-FUの効果が高いと報告されている。一方、遺伝子多型は末梢血により測定可能なため、測定が簡便であり検体の質が安定している利点がある。本報告では、bolus 5-FU/LVの治療効果がTS およびMTHFR 遺伝子多型により予測が可能であることを示したものであり、いわゆるテーラーメード治療に結びつくもので意義深い。問題点としては、毒性発現に関しては2R/2R の患者では3R/3R の患者に比較してTS酵素活性が低く、5-FUの副作用が出やすいとされていることである。本報告では毒性に関する詳細は報告されていないが、3R/3R では副作用発現が低く、その結果、抗腫瘍効果や予後が良好となった可能性がある。また、腫瘍自体の遺伝子発現を捉えられないため、正確に感受性が予測できない可能性もある。本報告とは逆に2R/2R の患者で効果が高いとする報告やTS 遺伝子型では効果に差がないとする報告もあり、今後の大規模な研究が待たれるところであろう。
監訳・コメント:山口大学医学部 硲 彰一(消化器・腫瘍外科学[第2外科]・講師)