結腸・直腸癌患者におけるリンパ節の評価:集団調査
Baxter NN, et al., J Natl Cancer Inst. 2005; 97(3): 219-225
結腸・直腸癌の病期分類には適切なリンパ節の評価が必要である。また、リンパ節の検索数は生存率と関連するとされ、International Union Against CancerおよびAmerican Joint Committee on Cancerの最新のガイドラインでは、適切なリンパ節の評価を実施するために、最低12個のリンパ節検索を推奨している。著者らは米国NCIのデータベース“Surveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)”のデータから、結腸・直腸癌患者に対する適切なリンパ節評価の実施率を調査した。
1988年から2001年にかけて結腸・直腸癌と診断され、neoadjuvant radiationを施行していない18歳以上の根治術症例11万6,995例を対象に、リンパ節の検索数および適切なリンパ節評価(リンパ節の検索数≧12と定義)の実施率を調査し、また適切なリンパ節評価の実施に及ぼす年齢、人種、性別、地域、年代、および腫瘍の特徴(ステージ、部位)の影響を評価した。
全調査期間における対象者全体のリンパ節の検索数は9(中央値)であり、適切なリンパ節評価の実施率は37%にすぎなかった。適切なリンパ節評価の実施率は1988年の32%から2001年には44%に増加した(傾向性に関するp<0.001、Cochran-Armitage検定)。進行癌患者(ステージ II/III)における適切なリンパ節評価の実施率は、ステージ I 患者よりも有意に高かった(ステージ III のOR 2.27、95%CI 2.18〜2.35)。高齢患者(71歳以上;OR 0.45、95%CI 0.44〜0.47)では、若年患者に比べて適切なリンパ節評価の実施率が低く、左結腸癌(OR 0.45、95%CI 0.44〜0.47)または直腸癌(OR 0.52、95%CI 0.50〜0.54)の患者における適切なリンパ節評価の実施率は、右結腸癌の患者に比べて低かった。地域は適切なリンパ節評価の重要な予測因子で、その実施率は33%から53%まで異なっていた。
2001年においても、結腸・直腸癌患者の大部分において適切なリンパ節評価が実施されていなかった。患者の年齢および地域と、適切なリンパ節評価の実施率には関連性が認められ、地域ごとの術式および病理検査のパターンがリンパ節評価の適切性に影響を与えることが示唆された。
手術標本取り扱いの重要性
近年、生活習慣の欧米化に伴い、本邦でも大腸癌が増加してきている。本論文は、進行大腸癌の生存率に影響を与える術後の検索リンパ節個数とその適切な評価の実施率を、全米の11の地域よりの11万症例を超える登録データを用いて解析している。そして、近年においても未だ十分なリンパ節の検索ができておらず、腫瘍因子のみならず地域により格差があると論じている。不適切な術後標本の取り扱いにより、本来存在するリンパ節転移が病理学的に証明されず、正確なステージ診断ができていない可能性がある。その場合には患者の術後補助療法の機会を奪い、これにより予後を左右する可能性がある。改めてその必要性を認識させられる。また、著者らはリンパ節検索のための教育の効果についても述べている。本邦では術後標本の取り扱いは欧米と異なり外科医が施行することが多い。『大腸癌取扱い規約』に述べられてはいるが、本邦においても基本的事項の教育が必要であると考えられる。
監訳・コメント:高知大学医学部 小林道也(腫瘍病態学講座腫瘍局所制御学教室・助教授)