結腸・直腸癌再発に対する治療および生命予後の経時的推移
Guyot F, et al., Ann Oncol. 2005; 16(5): 756-761
結腸・直腸癌の再発後の治療管理に関する地域集団レベルの検討は少ない。フランス、ブルゴーニュ地方 Côte d'Or の住民を対象として28年以上にわたり行われている癌登録(1998年調査時50万7,000人在住)のデータを用いて、結腸・直腸癌再発後の治療法および生命予後の経時的推移を検討した。
1976〜2000年に結腸・直腸癌の治癒切除を受けた3,655例のうち、再発に関する情報の得られた3,492例(95.5%)を解析対象とした。3〜28年の追跡期間中、再発は1,064例であった(局所再発 338例および遠隔転移 726例)。治癒切除、緩和的手術、緩和化学療法、緩和放射線療法および対症療法からなる治療方法と生命予後に関する経時的推移を分析するために、再発診断時期 を 1976〜1984年、1985〜1993年、1994〜2003年の3期に分けて単変量解析および多変量解析を実施した。
遠隔転移症例の治癒切除率は経時的に6.7%(1976〜1984年)から23.7%(1994〜2003年)に上昇し(p<0.001)、局所再発症例では15.9%から 58.1%に上昇した(p<0.001)。年齢(75歳未満)および再発診断時期(1985〜1993年および1994〜2003年)は治癒切除率を上昇させる独立因子であった。直腸癌の局所再発症例では、結腸癌の局所再発症例よりも治癒切除率が低かった(p = 0.05)。治癒切除症例における5年OSは他の治療法実施症例よりも高く、長期生存は治癒切除症例にのみ観察された。局所再発症例 の5年OSは31.6%、遠隔転移症例 の5年OSは21.6%であった。多変量解析において、OSは高齢者(75歳以上)で低下し、再発診断時期が近年になるほど上昇したが、1976〜1984年に対する有意差は1994〜2003年においてのみ認められた。遠隔転移症例において、緩和的手術と緩和化学療法が治癒切除に比べて予後を悪化させる因子であったのに対して、局所再発症例においては、緩和的手術と緩和放射線療法が予後を悪化させた。
結腸・直腸癌再発に対する治療は近年、確実に進歩を遂げた。結腸・直腸癌患者の予後を改善するには、より効果的な治療と集団スクリーニングが有望な取り組みと思われる。
癌登録データから得られたエビデンスを治療現場へ
本研究は、フランスの地域住民を対象として28年以上にわたって収集された癌登録データをもとに実施された研究である。すなわち明確に定義された患者集団において診断された全患者を長期にわたり追跡調査しているため、選択バイアスが小さく、得られた結果の信頼性は高いといえる。約30年間のデータを時間軸で3つのサブグループに分け、局所再発と遠隔再発に分類して、治療法および延命効果の経時的変化とそれらの関連を解析している。切除不能転移例に対して化学療法が best supportive careよりも生命予後およびQOLを改善することが、1990年初めに臨床試験により示された。1998年に化学療法の使用が推薦され、1994〜2003年に化学療法を受けた患者の割合は1985〜1993年に比べ上昇したものの、30.2%にとどまった。臨床試験により示された科学的なエビデンスが治療現場に浸透するにはある程度の時間が必要であることを述べている。そういった知見は病院ベースの研究から得ることは難しく、地域ベース研究の大きな利点といえよう。
監訳・コメント:京都大学大学院医学研究科 森田智視(医療疫学分野・講師)