完全切除された高リスク胃癌患者に対する5-FU/LV/CDDP±paclitaxel による
併用化学療法と5-FU/放射線とを用いた補助化学放射線療法:
AIO/ARO/ACOによる2つの多施設共同第II相臨床試験
Kollmannsberger C, et al., Ann Oncol. 2005; 16(8): 1326-1333
3〜4剤併用化学療法と5-FU/放射線療法とを併用する術後の補助集学的治療における忍容性と毒性、有効性を2つの第II相試験において評価した。両試験では2000年12月〜2003年10月に合計86例が登録された。症例選択基準は、18〜75歳、ECOGのPS 0〜2、D1またはD2リンパ節郭清が行われた胃または胃食道接合部腺癌の完全切除例であった。両試験での併用化学療法は、5-FU/LV/CDDP/paclitaxel (FLPP、n=41)と5-FU/LV/CDDP(FLP、n=45)である。FLPP群では5-FU 2,000mg/m2/24時間持続静注+LV 500mg/m2(毎週×6回)、paclitaxel 175mg/m2(1、4週目)、CDDP 50mg/m2(2、5週目)を投与した。またFLP群では同様の5-FU/LVと、CDDP 50mg/m2(1、3、5週目)を投与した。各群においてこれらの化学療法を2サイクル施行し、両サイクルの間に、5-FU 225mg/m2/24時間持続静注を同時併用する45Gy/25回の放射線照射を施行した。D1/D2実施率は、FLP群53%/42%、FLPP群27%/68%であり、UICCのステージIII以上(M0)の患者の割合は、FLP群63%、FLPP群66%であった。追跡期間の中央値はFLP群で10ヵ月(3〜25ヵ月)、FLPP群では18ヵ月(2〜51ヵ月)であった。FLP群におけるCTCのグレード3/4の毒性発現率(%)は、化学療法1サイクル目/放射線化学療法/化学療法2サイクル目において、それぞれ顆粒球減少3/0/27、食欲不振6/10/8、下痢8/0/4、嘔気3/0/4であった。またFLPP群の毒性発現率は、それぞれ顆粒球減少0/0/37、食欲不振5/11/6、下痢5/0/3、嘔気3/8/0であった。カリニ肺炎により、FLPP群の1例が早期に死亡した。推定2年PFSはFLP群で64%(95%CI:56〜68%)、FLPP群は61%(42〜78%)であった。 両レジメともに、毒性は忍容可能であった。胃癌根治切除術後の臨床第III相試験における試験治療として、CDDPを加えた5-FU/LV/CDDP、さらにはpaclitaxelを加えた5-FU/LV/CDDP/paclitaxelによる併用化学療法と5-FU/放射線療法とを併用する集学的治療は、実施可能であることが示された。不必要な毒性を予防するためには、経験豊富な病院で併用化学療法を実施すべきである。
歴史は変わるか? 胃癌術後補助療法の命題に挑む
胃癌に対する補助療法の歴史は長い。これまで、根治切除術後に補助化学療法(CTX)を行うPhase IIIが数多く行われてきたが、ほとんどがnegative resultsに終わっている。補助療法の分野で歴史を変えたstudyは、術後化学放射線療法(CRT)の有効性を示したINT-0116 study(N Engl J Med. 2001; 345: 725-730)と、術前化学療法(CTX)の有効性を示したMAGIC trial (ASCO 2005 ♯4001)である。INT-0116ではCRTによる局所制御により、MAGIC trialでは高いcomplianceを有する術前CTXによるdown stagingにより、それぞれOSの有意な改善を得た。どちらのstudyにおいても術後に補助CTXを用いているが、その有効性は明らかではない。その意味で、歴史は変わっていないといえる。本報でKollmannsbergerらは、INT-0116において弱点であったCTXを改良した2つのPhase IIについて報告している。治療戦略は、基本的にINT-0116と同様である。根治切除後のstage IB〜IVを対象として、CTX+CRT+CTXによる集学的治療を行う。CTXによりPを含めた遠隔転移制御を、CRTにより局所制御を狙う戦略である。彼らは、INT-0116での5-FU/LV(FL)に、CDDP(FLP)やpaclitaxel(FLPP)を加えた3〜4剤併用CTXを試みた。両レジメともにgrade 3/4の毒性は低い。Complianceと密接につながる消化器毒性の発生頻度もそれほど高くない。実際のcomplianceは、FLP/FLPPで毒性による中止26%/12%、患者拒否15%/5%と、経験豊富な施設で行われたFLPPではINT-0116の17%、8%と比べて遜色ない。観察期間はまだ短いが、2年PFSはFLP/FLPPで64%/61%と、INT-0116の約50%程度よりは高そうである。これらの結果をもとに、彼らはFLPやFLPPを用いたCTXとCRTを併用する試験治療をPhase IIIとして実施できると結論づけた。歴史を作るのは、強力な併用化学療法か、否か。今後のPhase IIIに要注目である。
監訳・コメント: 神奈川県立がんセンター 吉川貴己(消化器外科・医長)