論文紹介 | 監修:京都大学大学院 医学研究科 坂本純一(疫学研究情報管理学・教授)

11月

術後補助化学療法を受けたステージIII結腸癌患者における生存予測:
thymidylate synthaseおよびdihydropyrimidine dehydrogenaseの蛋白発現

Westra JL, et al., Ann Oncol. 2005; 16(10): 1646-1653

 原発性、リンパ節転移陽性、ステージIII結腸癌で5-FUベースの術後補助化学療法が施行された患者を対象として、thymidylate synthase(TS)とdihydropyrimidine dehydrogenase(DPD)の発現による長期生存の予測性を検討した。また、TP53 変異状態がTS阻害と機能的に関連すると考えられていることから、TP53 がDFSに及ぼす影響についても検討した。
 オランダにおいて実施されたCKVO 90-11 trialに参加した患者391例(平均年齢58.7歳、無作為化時)を解析対象とした。結腸腫瘍の組織マイクロアレイを用いて、免疫組織化学的検査によりTSおよびDPD蛋白発現を測定した。TP53 変異については、既に220の腫瘍についてスクリーニングを実施している(Westra JL, et al., J Clin Oncol. 2005; 23(24): 5635-5643)。
 原発性のステージIII結腸癌におけるTS蛋白の発現は粘液産生腫瘍で低く(p=0.04)、DPD蛋白の発現が低い症例は高い症例と比較して年齢が若かった(p=0.01;DPD発現低/高症例の平均年齢は56.2歳/59.6歳)。原発性および転移性腫瘍においてTS発現とDPD発現の一致率は低かった。DFSとTSまたはDPD蛋白発現レベルとの間に関連性はみられなかった。TP53 変異状態は、TS蛋白レベルで層別化した後もDFSの悪化と有意に相関した(p=0.0019)。それに対してTS発現レベルについては、TP53 変異状態で層別化した場合にDFSへの影響が認められなかった。
 TSおよびDPD蛋白発現は、ステージIII結腸癌で5-FUベースの術後補助化学療法を施行された患者において生存期間の予測因子とはならない。また、TS蛋白レベルはTP53 変異状態の影響を受けなかった。

考察

TS蛋白およびDPD蛋白の発現レベルは術後補助化学療法を受けた
stage III大腸癌のDFSの予測因子となるか

TSあるいはDPDの発現程度が大腸癌の予後予測因子になるかについては多くの報告があり、示されている結果もまた様々である。本研究では、TSとDPDのいずれの発現程度もstage III大腸癌のDFSと相関を示さなかった。しかし、有意差は認められないものの、TS、DPDともに活性の高い群が良好なDFS率を示す傾向にある。この傾向は、5-FUによるTSの阻害形式が競合的阻害であること、投与された5-FUの解毒を律速するDPDの高発現は5-FUの抗腫瘍効果を減じることに反している。TSが一部を触媒するピリミジン代謝は、還元型葉酸を介して種々の重要な代謝系と密接な関係にあり、これらの代謝系は極めて厳密な調節機構のもとにおかれている。腫瘍組織を用いて2つの蛋白質の一時点の発現を免疫組織化学的に評価しても、このように矛盾した結果が得られることはむしろ当然かもしれない。本論文でも触れられているが、今後はTS mRNAに結合してその翻訳を調節する蛋白群の役割や相互作用の解明が重要であろう。また、長時間にわたって翻訳活性に影響を及ぼすTS遺伝子多型とDFSとの関連については、測定方法の影響を大きく受けるTS蛋白発現と異なり、有意な結果が得られる可能性が高い。

監訳・コメント:金沢大学医学部 大村健二(心肺・総合外科・講師)

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