術前、術後に放射線治療（RT）を受けた直腸癌患者における二次癌の発生について解析した。
　Uppsala Trial（1985年に終了、手術可能な直腸癌471例）とSwedish Rectal Cancer Trial（1990年に終了、手術可能な直腸癌1,147例）の登録患者を対象とした。Uppsala Trialでは術前RT群（全ステージ）と術後RT群（ステージIIおよびIII）に、Swedish Rectal Cancer Trialでは術前RT併用群と手術単独群に無作為割り付けされた。Swedish Cancer Registryの登録をコントロールとして、比較検討を行った。
　調査を行った1,599例のうち115例（7％）に、122件の二次癌が発生した。RTを施行された患者（RT併用群）は、手術単独群に比して二次癌の発生率が高かった（RR 1.85；95％CI 1.23〜2.78）。RT併用群における二次癌の有意な増加は、照射体積内または隣接臓器にみられたが（RR 2.04；95％CI 1.10〜3.79）、照射体積外では有意な増加はみられなかった（RR 1.78；95％CI 0.97〜3.27）。Swedish Rectal Cancer Trialでは、局所再発または二次癌発生がRT併用群の20.3％にみられたが、手術単独群では30.7％にみられ、RT併用群では合計リスクが45％低下した（RR 0.55；95％CI 0.44〜0.70）。
　直腸癌治療として手術とRTを併用した患者には二次癌発生のリスク上昇がみられ、それは照射体積内または隣接臓器における二次癌リスク上昇によるものであった。しかし、局所再発と二次癌発生の合計リスクは低下したことから、RTによる局所コントロールの向上という好ましい効果のほうが重要であると考察された。

　放射線照射により発癌が起こる。これは明らかな事実である。一般に、放射線照射から悪性腫瘍の発生までの期間は、白血病では6〜7年がピーク、固形腫瘍では10〜15年から増加し始め、癌の好発年齢になってさらに増加する。
　本論文のsecond cancer（二次癌）とは、直腸癌の治療後に発症したすべての癌を指している。二次癌の研究のためには、年齢、生活習慣などの背景をマッチさせた対照と、取りこぼしのないデータ収集が必要である。
　古くから放射線で治療されてきた子宮頸癌を題材にとると、欧米ではBoiceら、日本では放射線医学総合研究所（放医研）から、数万〜10万人規模の研究が報告されている。その結果、全部位を対象とした場合、二次癌の発生率は、照射例、非照射例で変わらないが、照射群では照射野内の癌の発生が増加したと報告されている。本年ASCOで発表された大野ら（放医研）のデータでは、骨盤内の癌（放射線誘発癌）の発生率は、10年後から増加し始め、15年で2.4％、25年で4.8％、と報告されている。50歳で癌になった人は、75歳で約5％の確率で照射野内の癌が発生するということである。この発生率は、誘発癌をおそれるあまり治療を躊躇するほどのものではないと考えられる。
　臨床医は、放射線治療の二次癌を心配するが、化学療法ではあまり心配はしない。抗癌剤による発癌は、血液腫瘍以外では調査が困難である。なぜならば、抗癌剤による固形癌の治癒率はきわめて低いため、二次癌は問題とならないからである。生きていればこそ、有効な治療であるからこそ、二次癌が問題となるのである。今後、術前化学放射線療法が増加していくと、今回報告された放射線による二次癌の発生率よりも、高い発生率が報告されるようになるかもしれない。

監訳・コメント：群馬大学大学院医学系研究科　櫻井英幸
（病態腫瘍制御学講座腫瘍放射線学分野・講師）