論文紹介 | 監修:京都大学大学院 医学研究科 坂本純一(疫学研究情報管理学・教授)

11月

結腸・直腸癌の切除不能肝転移例に対するoxaliplatin肝動注+静注化学療法:
Fédération Nationale des Centres de Lutte Contre le Cancerの消化器グループによる多施設共同試験

Ducreux M. et al., J Clin Oncol. 2005; 23(22): 4881-4887

 結腸・直腸癌における肝外病変のない切除不能肝転移症例の予後は不良で、外科的切除あるいはラジオ波凝固療法(RFA)、寒冷療法の実施率も低い。このためさまざまな薬剤を用いた肝動注療法の評価が行われてきた。一方、LV/5-FUとL-OHPとの併用療法は結腸・直腸癌の治療に有効である。このような状況において、L-OHP肝動注とLV/5-FUの静脈内投与(LV5FU2 regimen)の併用療法を検討する第II相試験を実施した。
 切除不能の肝局在性転移巣を有する転移性結腸・直腸癌患者(75歳未満、WHOのPS≦2、組織学的に確認された結腸・直腸癌からの切除不能肝転移、CTによる肝浸潤領域<50%、肝病変の直径≧20mm)で、過去にL-OHPの投与を受けていない患者を対象とした。肝動脈カテーテルを外科的に留置後、day 1にL-OHP 100mg/m2を2時間かけて肝動注し、LV5FU2療法に従って、day 1とday 2にLV 200mg/m2を2時間かけて点滴静注し、5-FU 400mg/m2をbolus静注、その後FU 600mg/m2を22時間かけて持続静注した(2週間毎に繰り返し)。病変増悪または治療継続が不可能な毒性発現まで治療を継続し、腫瘍縮小効果を2ヵ月毎に評価した。
 試験に参加した6施設で28例が登録され、合計200コースの治療が施行された。施行コース数の中央値は8コース(0〜20コース)で、28例中26例が治療を受けた。最も多く発現した毒性は好中球減少(グレード3以上;48%)で、肝動注に関連した主な毒性は疼痛であった。Intent-to-treat解析による奏効率は64%(95%CI 44%〜81%;28例中18例)で、追跡期間中央値は23ヵ月時点におけるOSおよびDFSの中央値はともに27ヵ月であった。
 L-OHP肝動注とLV/5-FU静脈内投与(LV5FU2)の併用療法は、肝外病変のない切除不能肝転移を有する結腸・直腸癌患者において実行可能かつ有効な治療法である。

考察

依然ある肝動注への期待。ただし、IVR関与の兆候なし。

 投与形態は基本的にFOLFOXにおけるL-OHPの投与経路のみを肝動注に変えたものであり、FOLFOXとのRCTを視野においたものと考えられる。FUDRの2週間持続投与(4週毎)という従来の欧米における標準的肝動注に比べれば、2時間投与ですむという利便性や、FUDR動注特有の肝毒性のない点も大きな利点といえる。一方、「肝転移のみの症例」におけるOS 27ヵ月がFOLFOXと比べどこまで期待のもてる数値であるかは不明であるが、開腹術によるカテ−テル留置で種々のトラブルがあり、動注施行回数の中央値がわずか8コースである点を考慮すれば、潜在的なpowerはもっと大きいのかもしれない。問題は、本邦で標準とされ多数公表もされているIVRを用いた技術に全く触れることなく、不完全な技術によるfeasibilityの低さを「肝動注に必然の事実」として捉えている姿勢である。より大規模な試験への意図も述べられているが、肝動注技術に対する不十分な認識が今後の試験に及ぼす影響が懸念される。

監訳・コメント:国立がんセンター中央病院 荒井保明(放射線診断部・部長)

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