論文紹介 | 監修:京都大学大学院 医学研究科 坂本純一(疫学研究情報管理学・教授)

11月

cT2N0遠位直腸癌における術前放射線照射:
腹会陰式直腸切除術の代替療法はあるのか?

Rengan R, et al., J Clin Oncol. 2005; 23(22): 4905-4912

 cT2N0遠位直腸癌では腹会陰式直腸切除術(APR)による治癒切除が行われるために、一般的に術後補助療法は必要ではない。しかしながら患者がAPRを拒否した場合には、どのような代替療法があるのだろうか。本試験は、術前照射がcT2N0遠位直腸癌患者の括約筋温存率を上昇させるか否かを検討することを目的として実施した。
 1988年4月から2003年10月の間に、臨床検査や経直腸超音波検査によりT2期に分類された原発性遠位直腸腺癌で、外科医によりAPRが必要と判断されたものの、APRを希望しなかった患者27例に対して術前骨盤照射(50.4Gy)を施行した。手術は照射4〜7週間後に施行した。病理学的転移陽性の骨盤リンパ節が認められた場合は、術後補助化学療法を推奨した。追跡期間の中央値は55ヵ月であった(9〜140ヵ月)。
 病理学的著効率は15%(27例中4例)であり、78%(21例)には括約筋温存術が施行された。括約筋温存術施行患者の局所再発率は10%であり、5年局所再発率は13%であった。また、同様に5年OSは86%、5年DFSは77%、5年無人工肛門生存率は100%であった。Memorial Sloan-Kettering Cancer Centerの括約筋機能スコアを用いると、括約筋温存術施行患者の54%は手術後12ヵ月〜24ヵ月の排便機能が良好/最良であり、そのうちの77%は手術後24ヵ月〜36ヵ月も良好/最良を維持していた。
 本検討の結果、APRが必要なcT2N0遠位直腸癌患者にとって、術前骨盤照射は局所コントロールや生存に明らかな悪影響を及ぼすことなく括約筋温存能を向上させることを示唆した。

考察

cT2N0下部直腸癌に術前放射線照射は本当に必要か?

 本研究の対象はcT2N0で、肛門管への浸潤はなく、肛門縁までの距離は2〜7cmとされている。このような場合、私たちは、術前放射線照射なしで、intersphincteric resection+結腸肛門(管)吻合(2〜4cm)、またはdouble staplingを用いた低位前方切除術(4〜7cm)を行っており、まず直腸切断術を行うことはない。このなかで、肛門縁からの距離が1〜4cmで、pT2の私たちの症例の局所再発率は0%であった(0/27例、ただし観察期間中央値1.5年)。この結果と本論文の結果を単純には比較できないであろうが、2型の高・中分化腺癌のcT2N0であれば、術前照射の必要はないのではないか、と考えている。また、本論文では肛門縁からの距離が4〜7cmの腫瘍に対しても、術者が直腸切断術を必要とすると判断しているようであるが、これは奇異な感じを受ける。いずれにしても、肛門縁から1〜4cmのcT2N0腫瘍における術前照射の効果に関するデータはなく、無作為化比較試験で検証すべきである。

監訳・コメント:国立がんセンター中央病院 赤須孝之(外科・医長)

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