論文紹介 | 監修:京都大学大学院 医学研究科 坂本純一(疫学研究情報管理学・教授)

12月

OncoSurge:結腸・直腸癌肝転移において治癒切除率を向上させる戦略

Poston G.J., et al., J Clin Oncol. 2005; 23(28): 7125-7134

 結腸・直腸癌肝転移患者の多くは、肝転移治療の専門性にあまりこだわることなく、一般外科や腫瘍科を受診する。治療法は初期治療の臨床効果に依存する場合が多いことから、適切な治療手順を同定する治療法決定モデル(OncoSurge)の開発を目的とし研究を行った。
 RAND Corporation/University of California, Los Angeles Appropriateness Method(RAM)を用いて、治癒切除術、局所焼灼術、化学療法からなる治療法を評価した。体系的文献レビューにより、専門委員会は252種類の治療法につき1,872回の効果判定を行い、各治療法選択の適切性を評価した。決定モデルを作成し、委員の合意のもとで、48例の仮想症例と転帰が判明している実在の34例を用いて結果を検証した。
 全体としての合意率は93.4〜99.1%と意見の一致が得られた。治癒切除の絶対的禁忌は、切除不能肝外病変、70%以上の肝転移、肝不全、手術不適格例であった。治療法に影響を与えなかった因子は、年齢、原発癌の病期、転移発見時期、輸血歴、肝切除の術式、肝切除前のCEA値、肝切除術施行歴であった。レントゲン診断で十分な切除マージンが確認され、肝門部リンパ節腫大がなければ、即時切除は適切であり、その他の因子として4個以内の両葉転移または4個より多い片葉転移が挙げられた。4個以内の転移または4個より多い片葉転移の場合、化学療法施行後の切除は化学療法の効果に関係なく適切であった。4個以上の転移または両葉転移の場合、切除は化学療法による腫瘍縮小後のみ適切であった。可能であれば、治癒切除は局所焼灼術よりも優先された。
 これらの結果を決定マトリックスに組み込み、コンピュータプログラム(OncoSurge)を作成した。本モデルは個々の患者の治癒切除の可能性を明らかにし、推奨される至適治療法を同定する。本モデルは医学教育にも導入可能である。

考察

RAM:エビデンスと経験に基づく集約的治療評価

 本論文では、RAMという統計学的解析方法が用いられている。RAMは、既存のエビデンスに専門家の経験から得たコンセンサスをかぶせ、治療法の適切性を判定する手法である。適切性は、治療によって期待された効果がどの程度得られたかによって症例ごとに1〜9にスコア化される。すなわち、不適切(1〜3)あるいは適切(7〜9)であり、効果が中等度であったり専門家の評価が分かれる場合には、不明(4〜6)とされる。評価が分かれた場合、議論することによって統一した評価に至る場合があり、以上を繰り返すことによって判定の精度は向上する。エビデンスを生む手法と評価できるが、大変な時間と労力が必要といえよう。今回示された解析は結腸・直腸癌肝転移に対する切除術、焼灼術および化学療法の適切性を評価したもので、納得できる。今後も、新しい有効な治療の登場によって評価は異なっていくと考えられ、同一の解析手続きが繰り返されることになるだろう。

監訳・コメント:広島大学原爆放射線医科学研究所 山口佳之(腫瘍外科研究分野・講師)

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