論文紹介 | 監修:京都大学大学院 医学研究科 坂本純一(疫学研究情報管理学・教授)

1月

胃癌切除後の病期分類と生存に対するリンパ節カウント個数の影響:米国大規模住民データベースからのデータ

Smith DD, et al., J Clin Oncol. 2005; 23(28): 7114-7124

 治癒可能(M0)で完全切除された胃癌の予後は、主に病理学的TとNの病期分類により決定される。胃癌切除術時の至適郭清範囲については依然として意見が分かれている。
 Surveillance, Epidemiology, and End Results(SEER、1973〜1999年)データベースの構造化検索により胃癌のデータセットを作成した。検索リンパ節(LN)個数と生存との関連性を、T1/2N0、T1/2N1、T3N0、T3/N1の病期サブグループについて解析した。
 どのサブグループでも、OSは検索LN個数に大きく依存した。T1/2N0M0群の多変量予後変数は、検索LN個数、年齢(いずれもp<0.0001)、人種(p=0.0004)、性別(p=0.0006)、腫瘍サイズ(p=0.02)であった。全サブグループにおいて、検索LN個数の多さと長期生存との線形傾向が確認された。LNを1個のみ検索した時の基準予測5年OSは、56%(T1/2N0)、35%(T1/2N1)、29%(T3N0)、13%(T3N1)であった。各群とも10個のLNが追加郭清されるごとに、OSは基準値より7.6%(T1/2N0)、5.7%(T1/2N1)、11%(T3N0)、7%(T3N1)向上した。Cut-point 分析ではLN検索個数10個でOSの較差は最大となったが、cut-pointが40個までは有意な生存較差が持続し、検索LN個数の多いほうがOSは常に高かった。
 現在利用できる情報だけでは、stage migrationの影響と局所病変制御の改善とを分離することができないものの、胃癌に対する治癒切除では拡大リンパ節郭清が好ましいことを本データは支持している。

考察

本研究の結果はstage migration効果だけで説明可能かもしれない

 胃癌に対するリンパ節郭清の意義を、一般公開された大規模データベースを用いて検証しようとする研究である。治癒切除が行われた胃癌(補助療法なし)で、病期データがそろい、少なくともリンパ節が1個以上検索され、T1〜3でN0〜1の症例(3814例)が対象とされている。さまざまな分析の結果、どの病期でもリンパ節検索個数が多いほど予後が良好であることが示されているが、著者ら自身が考察で述べているように、これにはstage migrationが大きく影響しているはずである。すなわち、リンパ節を多く検索するほど(郭清程度は同じでも)転移を発見する可能性が高くなり、病期決定が正確に行われ、全ての病期で見かけ上の予後が改善する。米国ではリンパ節の郭清個数と検索個数には乖離があるので、本研究の結果からリンパ節郭清の生存改善効果を証明することには無理があろう。しかし、さまざまな傍証によりこの効果を主張しようとする著者らの努力は評価したい。

監訳・コメント:国立がんセンター中央病院 佐野 武(外科・医長)

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