大腸癌サーベイランス:ASCO診療ガイドラインの2005年改訂
Desch CE, et al., J Clin Oncol. 2005; 23(33): 8512-8519
2000年版のASCO大腸癌サーベイランス・ガイドラインを改訂した。
Intensiveな大腸癌サーベイランス・プログラムの効果を検討した無作為化比較試験のメタアナリシス3本の成績、および主要な大腸癌の臨床試験データの解析に基づいて、委員会は以下のように勧告した。
胸腹部CT検査:再発のリスクが高く、再発が治癒的切除となりうる患者に対して初回治療から3年間は年1回行う。骨盤CT検査:特に非照射例などの予後不良因子をいくつか有する直腸癌患者のサーベイランスとして行う。大腸内視鏡検査:術後3年目に行い、その結果が正常ならば、以後は5年ごとに行う。軟性直腸S状結腸鏡検査:骨盤照射を受けていない直腸癌患者に6ヵ月ごとに5年間行う。問診と理学的検査:はじめの3年間は3〜6ヵ月ごと、4、5年目は6ヵ月ごとに、以後は医師の裁量で行う。CEA:手術または全身療法の適応となりうる患者に対して、診断後から少なくとも3年間は術後3ヵ月ごとに測定する。胸部X線、血液検査、肝機能検査は推奨されない。既存のエビデンスからは、サーベイランスの方法は分子マーカーや細胞マーカーで左右されるべきではない。
CT検査が推奨項目に ─大改訂されたASCO大腸癌サーベイランス・ガイドライン─
本ガイドラインは、stage II、III大腸癌を対象とし、1999年以降に発表された論文のsystematic reviewから得られたエビデンスに基づいて改訂されたものである。エビデンスのなかではintensiveなフォローアップが死亡リスクを20〜30%減少することを示したメタアナリシスのインパクトが大きい。改訂内容はASCOのホームページに公開されている“Patient Guides”にもすでに反映されている。
改訂の目玉は、胸腹部CTと骨盤CTを推奨項目に採用したことであり、再発癌治療における画像診断の意義を認めた点で革新的である。腹部CTの有効性は切除可能な肝再発の早期診断効果に裏付けられたものであるが、胸部CTにはこれに匹敵するエビデンスはない。前版で採否の意見が分かれた胸部X線を一足飛びにして、胸部CTの採用で折り合いがつけられた。直腸癌に骨盤CTが推奨されたことは評価できるが、非照射を予後不良因子と見なすことは日本の実情にはそぐわないし、非照射例に対する半年ごとの5年間に及ぶ直腸S状結腸鏡検査はバランスが悪い。しかしながら、受診やCEA検査の回数を増やすなど、全体のトーンはNCCN*やESMO#などの欧米のガイドラインから乖離し、わが国の『大腸癌治療ガイドライン 医師用2005年版』(大腸癌研究会)に近づいた。
本ガイドラインの大腸癌死亡減少への寄与度、サーベイランスのコスト増分が米国の医療経済に及ぼす影響についての評価が待たれる。次の改訂では、細胞・分子マーカー研究の成果を踏まえた新世代のサーベイランス戦略が提案されることにも期待したい。
(*National Comprehensive Cancer Network、#European Society for Medical Oncology)
監訳・コメント:栃木県立がんセンター 固武健二郎 (外科・手術部長)