糖尿病と結腸・直腸癌のリスク:メタアナリシス結果
Larsson SC. et al., J Natl Cancer Inst. 2005; 97(22): 1679-1687
糖尿病と結腸・直腸癌の背景には、生活習慣などの共通のリスク因子がある。このため、糖尿病が結腸・直腸癌のリスクを増加させるとの仮説があり、これを裏付ける多くの研究がある。しかし、糖尿病と結腸・直腸癌の罹患率および死亡率に性別や占居部位(結腸あるいは直腸)が及ぼす影響については、まだ結論が得られていない。著者らは、結腸・直腸癌の罹患率および死亡率と、糖尿病との関連性に関する研究についてメタアナリシスを実施した。
1966年1月1日〜2005年7月31日の文献を検索し、該当する論文およびその引用文献リストの探索により対象とする試験を同定した。総計の相対リスク(RR)と95%信頼区間(CI)は変量効果モデルを用いて算出した。すべての統計学的検定は両側検定で行った。
のべ2,593,935例の参加者による15試験(ケースコントロール研究6試験、コホート研究9試験)の解析により、糖尿病は糖尿病でない場合と比べて結腸・直腸癌のリスク増加に相関することが見出され(結腸・直腸癌罹患率の総計RR=1.30、95%CI=1.20〜1.40)、試験間の不均一性はなかった(Pheterogeneity=0.21)。これらの結果は、研究の種類(ケースコントロール研究とコホート研究)、さらに研究が行われた地域(アメリカとヨーロッパ)で一致していた。糖尿病と結腸・直腸癌罹患率の関連性には、性別間(女性の総計RR=1.33、95%CI=1.23〜1.44;男性の総計RR=1.29、95%CI=1.15〜1.44;Pheterogeneity=0.26)、においても癌の占居部位(結腸における総計RR=1.43、95%CI=1.28〜1.60;直腸における総計RR=1.33、95%CI=1.14〜1.54;Pheterogeneity=0.42)においても統計学的有意差はなかった。糖尿病は結腸・直腸癌の死亡率と正の相関性を示したが(総計RR=1.26、95%CI=1.05〜1.50)、試験間の不均一性が示された(Pheterogeneity=0.04)。
これらの結果は、男女ともに糖尿病は結腸・直腸癌のリスク増加に相関するということを強力に裏付ける。
糖尿病予防は大腸癌予防につながる?
生活習慣病の代表である糖尿病のRisk factorは遺伝的要素を除くと、高脂肪食、カロリー摂取過多、運動不足、肥満などであり、これらは大腸癌の発癌に関係する因子としても報告されている。本論文は、糖尿病が大腸癌の罹患率および死亡率の増加に関与するかの、性差および大腸の部位別リスクを含めたメタアナリシスである。対象に選ばれた試験は、ケースコントロール研究とコホート研究であり、論文のheterogeneityの評価、Public biasの評価も行われている。糖尿病は結腸・直腸癌のリスク増加に相関することと、そのリスクに関して性差、癌の占拠部位に関連はないことを2,593,935例という多数の症例により示している。インスリンがIGF-1 receptorなどを介して細胞増殖を刺激することのin vitro study, animal modelなどがあり、今回の疫学的結果を支持している。また糖尿病による腸蠕動遅延がcarcinogenの結腸粘膜への暴露時間の増加をきたし、高血糖、トリグリセライドの増加が発癌に関与する胆汁酸を増加させることも生化学的に証明されており、この点からも今回の結果が支持される。
現在、欧米では大腸癌は全癌死亡の第2位を占めており、糖尿病が今後50年で165%の増加が見込まれることは、より多くの大腸癌の増加が予測される。このことは臨床的にも公衆衛生学的にも重要な問題であり、生活習慣が欧米化している日本においても重要な課題である。
監訳・コメント:千葉県がんセンター 滝口 伸浩(消化器外科・主任医長)