論文紹介 | 監修:京都大学大学院 医学研究科 坂本純一(疫学研究情報管理学・教授)

2月

ステージIII結腸癌に対する術後補助化学療法と5年OS:人種/民族、年齢、腫瘍分化度の関連

Jessup JM, et al., JAMA 2005; 294(21): 2703-2711

 1990年の米国NIHコンセンサス会議は5-FUベースのレジメによる術後補助化学療法を受けた患者を対象とした臨床試験において生存率が向上したことから、ステージIII結腸癌患者に対して術後補助化学療法を受けるよう勧告しているが、厳しく制御された臨床試験において得られた結果が一般臨床に応用できるとは限らない。
 術後補助化学療法が予後改善の標準治療として、地域社会において有用かどうか、および特殊な患者集団ではその有用性がなくなるかどうかを決定することを本研究の目的とした。
 1990〜2002年に560施設で登録されたステージIII結腸癌患者85,934例の前向きデータをNational Cancer Data Base(NCDB)に取り込み、臨床的特徴、病理的特徴、治療の初回コースを標準変数に含めた。米国内の病院で治療を受けた患者における術後補助化学療法の使用率と5年生存率を主要アウトカムとした。
 術後補助化学療法の施行率は1991年の39%から2002年には64%に増加したが、黒人、女性、高齢患者では低かった。術後補助化学療法によって5年OSは、手術単独と比較して1991年のほぼ8%から1997年の16%に向上した。術後補助化学療法は高齢者のOSを若年者と同等に向上させた。しかし、術後補助化学療法の有用性は、黒人および高〜中分化型の癌に対してはそれほど大きくなかった。
 ステージIII結腸癌患者に対する術後補助化学療法は、1990〜2002年に増加し、それに伴って5年OSも16%上昇した。術後補助化学療法の有用性は黒人患者や高グレード患者では低いと考えられた。女性では同様の有用性がみられたが、治療使用率は低かった。高齢者にも若年者と同様に有用であったが、施行率は低かった。2004〜2005年に加わった術後補助化学療法の新たな選択肢、LV/5-FUとCPT-11またはL-OHPの併用は、ステージIII結腸癌患者の予後をさらに向上させるかもしれない。

考察

ステージIII結腸癌に対する5-FUベースの術後補助化学療法の使用は増加している:5年OSの評価についてはより詳細なデータが必要

 本研究は、1990年の米国NIHコンセンサス会議において勧告されているステージIII結腸癌に対する術後補助化学療法が、一般臨床においてどの程度有用であるか、また人種の違いなどのある特殊な患者集団においてもその有用性があるかを検証するために行われている。
 本研究の結果のポイントは、1990年の米国NIHコンセンサス会議の勧告が、臨床の場での影響が大きかったことを示している点にある。著者らは考察の中で、会議の4年前までは化学療法の適応患者の10%以下しか治療を受けていなかったのに対し、会議後12ヶ月以内には3分の1以上の患者が補助化学療法を受けていたと報告している。
 ただ、データはintention-to-treatに基づく分析であるため、どの患者が予定のレジメンを完遂できたかは不明であり、また各々の患者が化学療法を受けた理由あるいは受けなかった理由も不明である。さらに5年OSが16%に増加した理由も補助化学療法の効果のみでなく手術単独群のOSの低下を含んでいる点にも留意する必要がある。

監訳・コメント:関西医科大学外科 吉岡 和彦 先生(外科・講師)

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