進行結腸・直腸癌患者におけるcapecitabine経口投与とLV/5-FU regimenの患者嗜好を比較した無作為化交差試験
Twelves C, et al., Ann Oncol. 2006; 17(2): 239-245
転移性結腸・直腸癌の治療には、長年にわたりLV/5-FU静注投与が用いられてきた。腫瘍組織において抗腫瘍活性物質5-FUに代謝される経口fluoropyrimidine剤capecitabineは、Mayo regimenと比べて優れた抗腫瘍活性と好ましい安全性を有し、しかも静脈内投与に伴う合併症と治療の煩雑さを回避する可能性を秘めていることが証明されている。
未治療の進行/転移性結腸直腸癌患者(18〜75歳、ECOG のPS≦2)97例について、capecitabine経口投与とLV/5-FU静注投与の無作為化群間交差試験を実施した。被験者を capecitabine経口投与を先行させる群あるいはLV/5-FU静注投与を先行させる群に無作為割り付けし、以下の治療を行った。すなわち、capecitabine経口投与は1,250mg/m2(腎機能が低下している患者ではその75%)を1日2回、1〜14日目に投与し15〜21日目は休薬とした(3週1サイクル)。LV/5-FU静注投与は、Mayo regimen(4週1サイクル)もしくはde Gramont regimen(2週1サイクル×2)をそれぞれ4週間にわたり実施した。入院患者に対するde Gramont regimenは、通常のde Gramont(IPdG)regimenとし、外来患者にはmodified de Gramont(OPdG)regimen(FOCUS試験の方法)を実施した。治療前後に、被験者の望む治療法について質問票を用いて調査した。
治療前に実施した質問票による調査で希望の治療法を記載した患者は、全治療群に一貫してほぼすべて(95%)が経口投与を選択しており、治療後もほとんどの患者がこの選択を変えなかった(全体では64%;Mayo群、IPdG群、OPdG群でそれぞれ86%、63%、50%)。治療後には、経口療法を好む主な理由として「簡便さ」、「自宅での服用」、および「錠剤での処方が可能」が増加した。治療満足度はMayo regimenよりもcapecitabine療法(p<0.05)、capecitabine療法よりもOPdG regimen(p<0.05)が有意に高かった。QOLは治療群間でほぼ一定であったが、capecitabine療法よりもOPdG regimenのほうが良好であった(p<0.05)。全治療群ともグレード3/4の有害事象はまれであった。
本試験により、転移性結腸・直腸癌患者の大多数は静注投与よりも経口投与を好むことが示されたが、OPdG regimenは今回の3つのLV/5-FU regimenのなかで最も好まれる静注投与の選択肢と考えられた。
患者の選択は静脈注射より経口抗がん剤−今後の日本の進むべき方向−
Capecitabineは日本で開発された経口抗がん剤であり、LV/5-FUに替わりうる可能性を秘めている。2005年にL-OHPが日本で承認されたが、静脈注射、持続静脈注射を基本とするFOLFOX療法での承認であり、多くの医師は経口抗がん剤でこの部分を代用したいと考えている。本論文は患者の選択が注射でなく経口抗がん剤であるという明快なデータである。
しかしながら、経口抗がん剤が、FOLFOXやFOLFIRIにおいてLV/5-FUに替わりうるというデータはいまだ十分ではない。Evidence based medicine時代の日常臨床では、first line、second lineで経口抗がん剤を用いることは慎まなければならない。それゆえ、今後の研究の1つの方向として、経口抗がん剤でのevidenceを、われわれ日本の大腸癌診療に携わる医師が構築していくべきである、と反省させられる。
監訳・コメント:近畿大学医学部 佐藤 太郎(内科学教室腫瘍内科部門・講師)