転移性結腸・直腸癌におけるbevacizumabの治療効果に対する血管内皮増殖因子-A発現、トロンボスポンジン-2発現、および微小血管密度の影響
Jubb AM, et al., J Clin Oncol. 2006; 24(2): 217-227
Bevacizumabは血管内皮増殖因子-A(VEGF)に結合するモノクローナル抗体である。以前行われた転移性結腸・直腸癌(mCRC)を対象としたpivotal trialにおいて、LV /5-FU/ CPT-11(IFL regimen)によるfirst line治療にbevacizumabを併用すると、生存期間の中央値は有意に延長した。そこで,このpivotal trialについてVEGF、トロンボスポンジン-2(THBS-2)、および微小血管密度(MVD)が、bevacizumabの有用性への予後因子および/または予測因子となりうるかをレトロスペクティブなサブセット解析により評価することを本研究の目的とした。
このpivotal trialでは、未治療のmCRC患者813例が無作為に割り付けられ、IFL+bevacizumab(bevacizumab群402例)またはプラセボ(プラセボ群411例)が投与された。312例から結腸・直腸癌組織が採取された(原発巣285、転移巣27)。このうち、転帰データは278例(bevacizumab群153例、プラセボ群125例)で得られた。内皮と間質におけるVEGF発現は、組織マイクロアレイと全セクションのin situ ハイブリダイゼーション(ISH)および免疫組織化学法により評価した。間質のTHBS-2発現は、組織マイクロアレイをISHで解析し測定した。MVDはChalkley countを用いて定量した。
全サブグループにおいて、bevacizumab群の死亡リスクに対する推定ハザード比(HR)は、VEGFやTHBS-2の発現レベルまたはMVDと無関係に1未満であった。THBS-2高スコアの患者(HR=0.11;95%CI 0.02〜0.51)は低スコアの患者(HR=0.65;95%CI0.41〜1.02)と比べて、bevacizumab投与後の生存期間に有意差はないものの改善を示した(相互作用解析:p=0.22)。OSはレトロスペクティブなサブセット解析においてこれらの変数と関連していた。VEGFやTHBS-2の発現、およびMVDは有意な予後因子ではなかった。
IFL regimenにbevacizumabを併用すると、VEGFやTHBS-2発現レベルあるいはMVDとは無関係に、mCRC患者の生存を改善することが本探索解析によって示唆された。
Bevacizumabの効果は血管新生と関係しない?
Bevacizumabは進行・再発大腸癌に対して有効であることが欧米で十分認知されており、本邦でも早期の導入が望まれている治療薬である。本論文は、いわばtrastuzumabとHER2の発現の関係のように、bevacizumabと直接結合するVEGFをはじめとして、thrombospondin、微小血管密度などの血管新生関連因子と治療効果が相関するかを検討したものであるが、結果的に関係は認められず、また血管新生と予後にも相関が認められなかった。
しかしながら、本研究は進行・再発例かつ治療を行った例を対象に後ろ向きに解析が行われており、最終的な結論を出すには大規模な前向き研究による検証が必要であろう。
いずれにせよ、分子標的薬は非常に高価であるため、適正使用が望まれる。本論文のような効果に関する検討は今後も増加すると考えられるが、薬の適応に直接関係する可能性があり、社会に与える影響は大きい。早く背景のしっかりとした研究結果が出ることを期待したい。
監訳・コメント:金沢大学医学部 西村 元一(消化器外科・講師)