進行下部直腸癌患者に対する術前補助放射線化学療法の無作為化第II相試験: Radiation Therapy Oncology Group Trial 0012
Mohiuddin M et al., J Clin Oncol. 2006; 24(4): 650-655
直腸癌の治療は米国において重要な臨床課題である。米国で年間約36,400例の直腸癌の新発生があり、その5年OSは55〜60%である。深達度T3以上の進行直腸癌に対して術後放射線化学療法が有効であるが、消化管の毒性や機能低下との関連が報告されている。術前放射線化学療法も施行されており、放射線療法単独に比べて病理組織学的完全奏効(pCR)率の向上が報告されているものの、施行方法が多岐にわたり、標準プロトコールが確立されていないのが現状である。本研究では進行下部直腸癌患者を対象とした術前補助放射線化学療法のpCR率と毒性を評価した。
進行(T3/T4)下部直腸癌患者(占居部位が歯状線より0〜9cm、ZubrodのPS 0〜1)を対象とした。5-FU(225mg/m2/日を持続静注で連続7日間)投与と合計55.2〜60Gyの骨盤照射(照射日ごとに1日2回、照射間隔は6時間以上、連続5日/週)を併用する群をarm 1、5-FU(225mg/m2/日を24時間持続静注、連続5日/週)投与とCPT-11(50mg/m2/回を週1回)投与(×4週間)に加えて50.4〜54Gyの骨盤照射(1.8Gyを1日1回)を同時併用する群をarm 2とした。両群ともに術前療法後4〜10週間で手術を施行した。
本試験に割り付けた106例のうち、評価可能症例は103例であった(arm 1:50例、arm2:53例)。補助療法後の切除可能率は93%であり、手術までの期間は平均7週間であった。術前補助放射線化学療法を受けた全症例でのpCR率は両群ともに26%であり、手術を施行した症例に限ったpCR率でも両群共に28%と差を認めなかった。またステージ別では、T3患者のpCR率は32%、T4患者では18%であった。ダウンステージングが得られた症例は両群でともに78%であった。毒性に関しては、総じて両群共に忍容性が高く、プロトコールの完遂率は90%であった。主な有害事象は血液・骨髄、皮膚および消化管障害、腎機能障害、疼痛であった。急性および遅発性有害事象発現率は両群で同等であった。グレード3、4の急性毒性のうち、血液毒性はarm 1で13%、arm 2で12%、非血液系毒性はarm 1で38%、arm 2で45%に生じた。
本研究ではpCR率および毒性について2つのプロトコールで差はみられなかったが、術前補助放射線化学療法により28%という比較的高いpCR率を得た初の多施設共同試験である。
進行下部直腸癌患者に対する術前補助放射線化学療法で高い病理組織学的完全奏効(pCR)が得られる
進行下部直腸癌に対する術前放射線化学療法についての多施設共同の無作為化第II相試験である。欧米において、近年、局所コントロールと毒性軽減の2つの観点から注目されている術前放射線化学療法であるが、現在まで行われてきた臨床試験の報告においてはpCR率も大きく異なり、また推奨すべき標準プロトコールも確立していない。
今回の臨床試験は術前の放射線照射の方法、および化学療法での抗癌剤の種類、投与法について比較的行いやすい2つのレジメを設定し、その効果と毒性について検証している。
結果として2つのプロトコール間での大きな差異はなかったが、特筆すべきは28%という高い病理組織学的完全奏効(pCR)が得られたことであり、またステージ別でのpCR率(T3 : 32%、T4 : 18%)を考え合わせると、術前の治療強度を高めることでこのpCR率をさらに高める可能性もおおいに期待される結果である。
手術単独での治療成績が欧米に比較して良好である我が国においては、直腸癌術前の放射線あるいは放射線化学療法はまだ一般的ではないが、今後、本試験での予後等遠隔成績の結果も含めて検証していく必要があると考えられる。
監訳・コメント: 関西労災病院 冨田 尚裕(外科・第二外科部長)