論文紹介 | 監修:京都大学大学院 医学研究科 坂本純一(疫学研究情報管理学・教授)

4月

切除可能結腸・直腸癌患者のセンチネルリンパ節における微小転移の解析:
CALGB 80001試験の結果

Redston M, et al., J Clin Oncol. 2006; 24(6): 878-883

 結腸・直腸癌の治癒切除術を受けたN0の患者のうち約25%が再発する。このことは現行の組織学的病期分類法では、N0の4例に1例が腫瘍の進行について認識され得ないということを示唆している。この問題を改善する方法の1つに微小転移(MMD)の検出法の確立があるが、結腸・直腸癌においてMMDの存在と治療後の再発の関連はまだ示されていない。そこで、MMDの検討に必要なリンパ節検索数を、センチネルリンパ節生検(SLNS)施行により減少しうるか否かについて予備的な研究を行った。
 治癒切除術の施行を予定されていた結腸・直腸癌患者を対象とした。患者は原発巣切除術中に、1% isosulfan blueを注入後にSLNSを施行した。得られたセンチネルリンパ節(SNs)と非センチネルリンパ節(non-SNs)をmultiple levelで切片を作製し、HE染色で観察した。また一部切片については、抗CEA抗原と抗サイトケラチン抗体で免疫組織化学染色(IHC)を行った。
 SLNSを実施した66例に対して標準的組織病理学的方法としてHE染色を行ったところ、24例(36%)において、SNsあるいはnon-SNsで少なくとも1つのMMD陽性リンパ節が認められた。そのうち11例(46%)が陽性SNs、13例(54%)が陰性SNsであり、SNの偽陰性率は54%であった。次にHE染色で陰性とみなされた患者のリンパ節に対してIHCを行ったところ、SNs検査の偽陽性率は高く20%、またMMD検出感度は低く40%と容認しがたいものであった。
 本研究の結果は、結腸・直腸癌におけるSLNSがMMDの存在を正確に予測できる技術ではないということを示唆している。

考察

進行大腸癌のup-stagingにSN生検は有用か?
−問われる多施設共同試験のquality−

 乳癌、メラノーマをはじめとしてsentinel node(SN)を指標とした転移診断の有用性は各種臓器において報告されている。大腸癌についても正確なリンパ節転移診断、stagingの指標としてのSNの有用性が数多く報告されてきた。
 本研究は、13施設25名の外科医が、T3、 T4の進行癌47例を含むわずか72 例の結腸・直腸癌を対象に行った多施設共同試験のデータに基づいている。本来ならばSN生検の対象外である高度進行癌を対象としており、さらに個々の外科医の経験症例数が少なく技術的に不完全なSN 生検を行ったために、これまでの研究報告とは大幅に異なる不良な成績が示された。これは明らかに研究計画の不備であり、大腸癌におけるSN生検を否定する根拠となっていない。
 あえて本研究の意義を挙げれば、比較的主要な施設が参加した多施設共同研究ということである。きわめて稚拙な研究結果であっても一流誌に掲載される可能性があるという米国の「政治的」背景を示した典型的な事例といえようか。

監訳・コメント: 慶應義塾大学医学部 北川 雄光(外科・専任講師)

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