Imatinib治療下の消化管間質腫瘍(GIST)例における多クローン性の二次的KIT 変異
Wardelmann E et al., Clin Cancer Res. 2006; 12(6): 1743-1749
GISTは、主としてc-kit遺伝子変異により生じるKIT受容体の強い活性化をその特徴としている。KIT 変異が認められないサブグループでは、類似する変異をplatelet-derived growth factor receptor α(PDGFRα)遺伝子に認める。KIT受容体とPDGFRα受容体は、ともにGIST進行例の治療を著しく向上させたチロシンキナーゼ阻害薬imatinibの標的分子である。しかし一部の腫瘍ではimatinib治療下で初期反応を得た後に二次的な進行がみられた。この二次的な治療抵抗性のメカニズムはいくつか考えられるものの、腫瘍が新たに耐性型のKIT 変異を獲得した可能性を示唆している。そこで本研究では、imatinib治療下のGIST患者から切除した腫瘍組織について上記のような二次的KIT 変異の頻度を評価した。
初期診断から最終評価までの追跡期間の中央値は51ヵ月(4〜144ヵ月)、PFSの中央値は19ヵ月(0〜45ヵ月)であった。32例の治癒切除不能、あるいは肝・腹膜転移性GIST患者(男性21例、女性11例、年齢中央値56.5歳 [34〜73歳])において、1〜7ヵ所の部位より得た腫瘍組織、総計104検体を解析し、14例(43.8%)に1例あたり最大4つの新たに獲得されたKIT 変異を認めた。これらの変異はすべて1番目、あるいは2番目のチロシンキナーゼドメインをコードするエクソン(エクソン13、14、17)に位置していた。この二次的変異はimatinib治療下に進行した病巣より得た腫瘍検体にのみ存在し、他の腫瘍組織における遺伝子の同領域は野生型配列であった。また、二次的なクローナル変化に一致して、同じ検体中には、新たに獲得したKIT 変異以外の他のKIT 遺伝子変異は存在しなかったが、最初の変異はおのおの腫瘍より得られたすべての検体に認められた。
以上より、GISTでの癌化と薬剤抵抗性の分子メカニズムを理解することが可能であり、これらの事実は、他癌種の同様な機構を理解する上で、また、治療戦略を確立する上でも一助となると思われる。
分子標的治療薬では標的遺伝子変異により薬剤耐性が生じる
本論文は進行消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor: GIST)のimatinib治療前後のKIT とPDGFR遺伝子変異を検索し、imatinib耐性機構の解明を試みたものである。32例のimatinib治療を受けたGIST手術症例を解析し、27例に一次(2例)ないし二次(25例)耐性を認めている。分子標的治療薬imatinibに対する耐性機構の解明は、慢性骨髄性白血病(CML)で先行して行われ、CMLでは大きく分けて、(1) 標的分子BCR-ABLのactivation loop内に生じる遺伝子変異(missense mutations)、(2) 標的分子BCR-ABLの過剰発現(遺伝子レベルないしタンパクレベル)、(3) 他の細胞内シグナル伝達系の活性化、(4) 薬物濃度の低下等、が報告されている。
本論文での耐性GISTの解析では、約半数の耐性GISTのKIT 遺伝子キナーゼ領域に新規の二次的遺伝子変異(CMLと同じくmissense mutations)を認めており、secondary mutationが、GISTのimatinib耐性機構の重要な原因であることを示している。この耐性獲得とその後の増殖はクローナルに起こり、同じ症例でも耐性病変の場所が異なれば、異なったsecondary mutationsを認めている。
症例数が少ないので予後との関連は明らかではないが、興味深いのはsecondary mutationがエクソン14に生じた症例では、他の部位にsecondary mutationが起こった症例に比し、早期にPDになっており、予後不良となっている。エクソン14の変異のほとんどがgatekeeper mutationであることを考慮すると、非常に興味深い事実である。また、著者らが述べるように、この機構は将来的に他の癌での耐性機構の解明にも役立つであろう。
監訳・コメント: 大阪大学大学院医学系研究科 西田 俊朗(外科学講座消化器外科・助教授)