論文紹介 | 監修:京都大学大学院 医学研究科 坂本純一(疫学研究情報管理学・教授)

5月

結腸・直腸癌の肝転移に対する肝動注(HAI)療法 vs 全身化学療法:
治療効果、QOL、分子マーカーについての無作為化試験:CALGB 9481

Kemeny NE et al., J Clin Oncol. 2006; 24(9): 1395-1403

 本試験は、未治療の切除不能肝転移を有する結腸・直腸癌肝転移患者135例を対象に、主要評価項目を全生存期間(OS)、副次評価項目を奏効率(RR)、再発、毒性、QOL、費用および分子マーカーの影響として、HAIと全身化学療法とを比較した多施設共同無作為化試験である。
 HAI群に68例が、全身化学療法群に67例が割り付けられ、HAI群ではFUDR、LV、dexamethasonの14日間持続投与を28日ごとに繰り返し、全身化学療法群は4週ごとにLVと5-FUとを5日間連続で投与した。OSはHAI群が24.4ヵ月、全身化学療法群が20ヵ月(p=0.0034)、RRはHAI群47%、全身化学療法群24%(p=0.012)、肝転移無増悪期間(THP)はHAI群9.8ヵ月、全身化学療法群7.3ヵ月(p=0.034)であり、いずれもHAI群が有意に良好であった。
 半面、肝外病変無進行期間(TEP)は、HAI群7.7ヵ月、全身化学療法群14.8ヵ月(p=0.029)であり、HAI群が有意に短かった。グレード3以上の毒性は、好中球減少が、HAI群2%、全身化学療法群24%、口内炎が、HAI群0%、全身化学療法群24%、ビリルビン値上昇がHAI群18.6%、全身化学療法群0%(すべてp<0.01)であった。また、3、6ヵ月時のQOL調査では、HAI群で身体機能改善が認められた。HAIによる胆管障害頻度には男性37%、女性15%(p=0.05)と性差がみられた。HAI群の腫瘍内thymidilate synthase(TS)と生存期間中央値(MST)をみると、TS 4.0未満例24.8ヵ月、4.0以上例14.2ヵ月(p=0.17)であった。
 HAIは全身化学療法に比べ、OS、RR、THPを改善し、身体機能を改善した。今後、総合的な効果ならびに費用の点から、新規治療薬による治療法を、HAI単独またはHAIと新規治療薬との併用療法と比較する必要がある。

考察

すでに時代は変わっていたが、肝動注にようやく出された結論
―日本はこのまま傍観者でよいのか?

 肝動注と全身化学療法とのRCTは1980年以降10本以上が報告されたが、メタ解析も含め、肝動注の優位性は証明されていない。しかし、これらの試験については、肝動注技術、症例数、cross-over(全身化学療法から肝動注への変更)デザインなどが当初より問題点として指摘されていた。この試験は、これらの問題をクリアするために、cross-overを認めないデザインで1996年から135例を集積したものであり、従来のRCTと同列に扱われるべきではなく、OSで有意差を示し、20余年続いてきたこの論争に決着をつけたものといえる。
 両群ともにMSTの20ヵ月超については、「その後導入されたCPT-11、L-OHPなどの新規薬剤が使用されたため」、TEPが短い点については、「それでも肝転移の制御が予後を改善することを示す」としている。最大の問題は、この試験結果が、今日のtriplet+分子標的薬剤による標準的治療のなかでどう扱われるかであろう。
 最近の、sequentialな多剤使用でも予後に差がないという報告[J Clin Oncol. 23: 250s, 2005(Suppl; abstr 3518)]も加味すれば、肝動注を再びfront lineにもってくることも考慮せざるを得ない結果ともいえる。日本は、いうまでもなく、肝動注の実施が世界で最も容易な国である。新規薬剤の導入が遅いことを理由に、今まで通り海外データの追従に終始するのか。判断は日本のG.I.Oncologistの対応にかかっている。

監訳・コメント: 国立がんセンター中央病院 荒井 保明(放射線診断部・部長)

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