T分類は直腸癌に対する術前放射線化学療法後においてもリンパ節の状態と関連するか
Kim D-W, et al., Cancer 2006; 106(8): 1694-1700
直腸癌において、病理学的T分類(pT)とリンパ節転移リスクが相関することはよく知られているが、術前放射線化学療法時のT分類(ypT:0〜4の5段階)とリンパ節転移の有無との関連についてはいまだ明確ではない。直腸癌に対する術前放射線化学療法を施行された患者において、所属リンパ節における癌転移の有無と直腸の原発巣の状態との関連性を調査した。
2001年10月〜2005年2月、cT3〜4で遠隔転移を有さない中部、下部直腸腺癌(肛門縁から口側8cm未満)患者282例を対象とした。術前放射線化学療法終了後 4〜8週間後に直腸切除術を行い、リンパ節転移の有無とypT分類、Dworak
regression grade、CT、MRIによる腫瘍容積測定値との関連性を検討した。
術前放射線化学療法については以下のごとく施行した。放射線は45Gy/25回を照射し、その後腫瘍部に5.4Gy/3回を追加した(5.5週間)。併用する化学療法は、143例にはLV/5-FUを、139例にはcapecitabineを投与した。LV/5-FU群にはbolus
LV/5-FU bolus 5-FUを(400mg/m2/day、LVを20mg/m2/day)を放射線照射第1週目と5週目に3日間、投与した。capecitabine群では照射期間中
825mg/m2を1日2回連日経口投与した。
リンパ節転移は282例中、87例(30.9%)に陽性であった。リンパ節転移陽性率は ypT0では45例中1例(2.2%)、ypT1 13例中1例(7.7%)、ypT
277例中13例(16.9%)、ypT3 140例中69例(49.3%)、ypT4 7例中3例(42.9%)であり、ypT分類と有意の関連性が認められた(p<0.001)。また、リンパ節転移の割合は組織学的な効果判定であるDworak
regression gradeが上昇するにつれて減少し(p<0.001)、グレード1で62.3%、グレード2で31.4%、グレード3で16.1%、グレード4で2.2%であった。しかし、MRIによる腫瘍容積測定結果と、リンパ節転移の有無との間には関連性は認められなかった。
術前に放射線化学療法を受ける患者にとって、病理学的なT分類は最も信頼のおけるリンパ節転移予測因子であった。本試験の結果では、ypT0〜1にdownstagingした患者では、リンパ節転移リスクは3.4%であると推測された。
“術前化学放射線治療でcomplete responseになった症例は局所切除で根治が望 めるか”への基礎的データ
現在欧米において、局所進行(T3/T4)直腸癌に対する標準治療法は術前放射線あるいは化学放射線療法(CRT)と適正な手術(Total Mesorectal Excision:TME)の併用である。1990年代半ばに新しい手術手技としてTMEが導入され、 局所再発率は従来20-30%であったものが半減した。 TMEが導入された現在、 術前に放射線あるいは化学放射線療法を用いると局所再発率が有意に減少することが2つの大きな第III相試験で確認され(van den Brink M, et al. J Clin Oncol 2004; 22: 3958、 Sauer R, et al. N Engl J Med 2004; 351: 1731)、 標準治療法として確立した。 術前にCRTを行うと 5〜20%の患者では原発巣の癌細胞は組織学的に消失する(CR)ため、これらの患者では局所切除で完治するのではないかという仮説が唱えられてきた。 本論文では従来の報告で結論に至っていないこの問題に対して、CR例で直腸間膜内のリンパ節転移陽性例は2.2%に過ぎないこと、リンパ節転移の有無はCRT後の原発巣の組織学的な効果判定よりも組織学的な壁深達度とより密接に関連していること、CRT後の腫瘍の縮小程度には関連してないことを明らかにしており、 臨床的に有意義な報告である。
監訳・コメント: 東海大学医学部 貞廣 荘太郎(消化器外科・助教授)