論文紹介 | 監修:京都大学大学院 医学研究科 坂本純一(疫学研究情報管理学・教授)

6月

化学療法を施行した進行胃癌患者における治療前薬理遺伝学的プロファイリングと臨床成績

Ruzzo A et al., J Clin Oncol 2006; 24(12): 1883-1891

 5-FUとCDDPの組み合わせは進行胃癌において多用されている併用レジメである。薬剤標的遺伝子、DNA修復酵素をコードする遺伝子や解毒経路に関連する遺伝子の多型は5-FUとCDDPの活性に影響を与えると考えられている。遺伝子多型と効果・予後との相関を検討することにより、治療効果の予測、さらには治療の個別化が期待される。本試験では進行胃癌患者を対象に、5-FUとCDDPに関連する遺伝子多型と臨床成績の相関を検討した。
 5-FU/CDDPによる化学療法を受けた進行胃癌患者175例(KarnofskyのPS≧70%)について、化学療法施行前に採取した末梢血検体を用いて、9つの遺伝子(TSMTHFRXPDERCC1XRCC1XRCC3GSTPIGSTTIGSTMI )における13の遺伝子多型と化学療法の効果およびOSとの相関を検討した。
 全体のRRは41%であり、PFSの中央値は24週(4〜50週)、OSの中央値は39週(8〜72+週)であった。はTS 5´-UTR 3G-遺伝子型(2R/3G、3C/3G、3G/3G)とGSTPI 105A/Aホモ接合遺伝子型の症例では有意に化学療法の奏効率も低く、生存期間も短かった。61例(35%)はこれら2つのリスク遺伝子型を有しておらず(グループ0)、57例(32.5%)は2つのうち1つを有し(グループ1)、57例(32.5%)は2つとも有していた(グループ2)。グループ0のPFSとOSの中央値はそれぞれ32週(8〜50週)と49週(18〜72+週)であった。グループ1と2はPFSの中央値がそれぞれ26週(6〜44週)と14週(4〜38週)、OSの中央値がそれぞれ39週(10〜58週)と28週(8〜56週)であり、グループ0よりも有意に短かった。これらの結果は多変量解析を行っても同様であった。
 本試験により、特定の遺伝子多型は進行胃癌患者の臨床成績に影響することが示唆された。遺伝子多型に基づき化学療法の選択を行うという方法が、今後の前向き研究における代表的な治療戦略となるかもしれない。

考察

遺伝子多型解析による胃癌に対する化学療法の効果および予後予測

 最近になり、治療個別化、テーラーメード医療を目指し抗癌剤の毒性や感受性の規定因子を求める研究が活発に行われている。注目されている規定因子の1つに癌患者の遺伝的背景因子の差異である遺伝子多型がある。これまでに、消化器癌の領域では5-FUを用いた大腸癌化学療法症例においてTS遺伝子多型(TS反復配列多型)と予後や有害事象との関連が報告されている。本研究では5-FU/CDDPを用いた胃癌化学療法症例を対象として薬剤活性に影響のある遺伝子多型と治療効果・予後との関連が示唆されており、臨床的に意義ある検討であると思われる。
 本検討では5-FUの標的であるTS遺伝子の多型のTS 5´-UTR 3G-遺伝子型およびCDDPの薬剤解毒にかかわるGSTPI 105A/Aホモ接合遺伝子型2つの因子を組み合わせることにより治療効果をよりよく予測することが可能であるとされている。消化器癌の化学療法は多剤併用療法が主体であることや、1薬剤にも多くの効果規定因子があることより、今後、本検討で示されたような有用な複数の遺伝情報をどのように組み合わせて解析を行っていくかが課題となると思われる。
 また、治療効果規定因子の有用性が前向き試験で示されたものはほとんどなく、今後、治療のテーラーメード化を進めていくには、大きな前向き試験での検討が必要であると思われる。

監訳・コメント: 独立行政法人国立病院機構四国がんセンター 仁科 智裕(消化器内科)

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