論文紹介 | 監修:京都大学大学院 医学研究科 坂本純一(疫学研究情報管理学・教授)

6月

転移性結腸・直腸癌化学療法既治療例に対するcapecitabine+L-OHP+erlotinib併用療法による第II相試験

Meyerhardt JA, et al., J Clin Oncol. 2006; 24(12): 1892-1897

 結腸・直腸癌においてepidermal growth factor receptor(EGFR)は25〜77%の腫瘍で過剰発現しており、そのような患者では予後は悪いことが知られている。抗EGFRモノクローナル抗体は単独で、あるいはCPT-11との組み合わせで転移性結腸・直腸癌既治療例に効果を上げている。ErlotinibやgefitinibのようなEGFRの細胞内ドメインに対する経口阻害薬は、転移性結腸・直腸癌に対して単独では大きな効果がみられないものの、化学療法との組み合わせで抗腫瘍効果を促進する可能性が考えられる。本試験では転移性結腸・直腸癌に対するsecond line治療としてのcapecitabine+L-OHP+erlotinib併用療法を検討した。
 進行転移性結腸・直腸腺癌患者(転移性結腸・直腸癌に対して1種類の化学療法を受けた、かつ/または補助化学療法を完遂したものの12ヵ月以内に再発した患者)で、RECISTによる測定可能病変を有し、ECOGのPS 0〜2の32例に以下の化学療法を施行した。第1群(13例)はL-OHP 130mg/m2をday 1に2時間かけて静注し、capecitabine 1,000mg/m2を経口で1日2回投与(day 1〜14)、erlotinib 150mg/m2を経口で1日1回投与(day 1〜21)した(1サイクル21日)。しかし第1群に高頻度の下痢が観察されたことから、第2群(19例)ではcapecitabineの用量を750mg/m2に減量した。
 31例が1サイクル以上の治療を受けた[中央値6サイクル(1〜18サイクル)]。Intention-to-treat解析により、32例中8例(25%)がPR、14例(44%)がSD 12週以上という結果が得られた。PFSの中央値は5.4ヵ月、OSの中央値は14.7ヵ月であった。以前にCPT-11投与を受けていた78%の患者についても、PFS中央値は5.4ヵ月であった。主なグレード3〜4の毒性は下痢(38%)、嘔気・嘔吐(19%)、倦怠感(16%)、脱水(16%)、皮膚炎(13%)であった。グレード3〜4の毒性はcapecitabineの開始投与濃度を750mg/m2に減少させることで改善された。
 過去にsecond lineの臨床試験として実施されたFOLFOXあるいはcapecitabine+L-OHPでは、RR 10〜15%、PFS 4〜5ヵ月と報告されていたのに比し、本試験で実施されたcapecitabine+L-OHP+erlotinibではRR 25%、PFS 5.4ヵ月が得られ、良好な成績といえる。化学療法既治療の転移性結腸・直腸癌患者にとって有効な治療法であり、今後first lineで検討すべきレジメと考える。

考察

大腸癌におけるerlotinibの将来性は?
−XELOX+erlotinib phase II studyの評価−

 EGFRを標的にしたチロシンキナーゼ阻害薬であるgefitinibやerlotinibといった小分子化合物は、EGFR抗体であるcetuximabやpanitumumabのように単剤では大腸癌に対する効果がみられていないことが過去に報告されている。本試験はFOLFOXの代替となりうる可能性のあるXELOX療法にerlotinib をonさせることで効果増強を狙ったものである。
 従来の報告と比し、second lineの成績としては奏効率、PFSとも良好な結果といえるが、grade 3〜4の下痢、嘔気・嘔吐、倦怠感、脱水、皮膚炎の頻度はcapecitabineを減量してもまだ高すぎると考える。自己管理が必要な内服薬ベースの治療ならばもっと忍容性の高い治療でなければ実用化は難しいと考える。
 本研究はfirst lineでFOLFOX+bevacizumab+erlotinibとして展開させていくと結んでおり、2006年ASCOのポスターセッションでその第II相試験の結果が報告された。この報告でも毒性が問題視されている。OPTIMOX 3ではメンテナンスにbevacizumab+erlotinibを採用していることなど、今後の方向性の1つであることは間違いないのだろうが、効果増強を図りつつ毒性軽減を確保することが大きな課題であろう。

監訳・コメント: 愛知県がんセンター中央病院 室 圭(薬物療法部・部長)

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