論文紹介 | 監修:京都大学大学院 医学研究科 坂本純一(疫学研究情報管理学・教授)

7月

Medicareに加入しているステージIII結腸癌患者における術後補助化学療法の完遂

Dobie SA, et al., J Natl Cancer Inst. 2006; 98(9): 610-619

 ステージIII結腸癌患者にとって術後補助化学療法の導入には人種や年齢といった特定の因子が関連することが知られている。しかし、どの因子が術後補助化学療法の完遂に関係しているのかはほとんど知られていない。本試験では米国NCIのSurveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)プログラムおよびMedicareの請求記録を分析し、結腸癌術後補助化学療法の導入の関連因子が、治療の完遂に影響を与えるか否かを検討した。
 1992〜1996年のSEERプログラムデータに診断結果を記録されており、かつ1991〜1998年のMedicare 請求によって術後補助化学療法の導入が確認された65歳以上のステージIII結腸癌患者3,193例を対象とした。本試験解析のため補助化学療法完遂の基準を、1ヵ月に1種の化学療法を受けることと定義した。基準の妥当性および人口統計的、臨床的、環境的変数により調整した3年間の癌による死亡率との関係を評価した。また、多変量ロジスティック回帰モデルにより患者の特性および化学療法を施行する内科医の特性と、化学療法の完遂との関係を解析した。
 対象3,193例中2,497例(78.2%)が補助化学療法1コースを完遂した。癌関連死は術後補助化学療法を受けていない者より術後補助化学療法を完遂した者のほうが有意に少なかった(相対リスク0.79;95%CI 0.69〜0.89)。また、女性、未亡人、70歳超の高齢、再入院、特定の地域に居住しているといった条件をもつ患者は、それ以外の患者よりも術後補助化学療法コース完遂率が低かった。人種、他の臨床的および環境的因子、内科医の特性は治療の完遂との関連がみられなかった。
 本試験の結果、身体的な弱さ(女性・高齢者)、治療の合併症、社会的・心理的支援がないことが治療未完遂に関連することが示唆された。これらの因子による影響を是正することが、補助化学療法施行の治療完遂率を上げるため必要な次なるステップである。

考察

周術期の合併症は化学療法完遂率に影響

 本論文は大腸癌手術後に化学療法を開始するか否かに影響する因子、ならびに開始した化学療法の完遂に影響する因子を解析したものである。人種の差や年収の差ならびに結婚などの社会環境の影響もうまく評価されている。化学療法の開始率は白人・男性・既婚・高収入・リンパ節転移陽性例で高く、完遂率も同様に評価され上述のごとくの結果となっている。開始率では人種差があるが、開始した化学療法を完遂することに関しては人種の差が認められなかった点は興味深い。手術後の合併症の因子を再入院の有無で評価しているが、周術期の合併症を併発した患者は化学療法の開始率も低くなり、また、始めた化学療法も未完遂に終わることが多いという結果であった。化学療法を完遂した患者のほうが予後良好なのは明らかであり、術後を順調に経過させることがいろいろな意味合いで重要であることが改めて示されている。
 SEERとMedicareのデータを利用したアメリカならではといえる解析であるが、化学療法のメニューや投与量が完遂率にどのように影響するかといった点に関しては検討されていないのが少々残念である。

監訳・コメント: 兵庫県立成人病センター 中村 毅(消化器外科・外科部長)

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