本研究は、局所進行直腸癌患者に対する術前放射線化学療法において、L-OHPによる短期間の術前化学療法導入の有無が病理学的著効率（pCR率）へ及ぼす効果についての検討である。
　1998年5月〜2002年10月に、局所進行直腸癌患者（肛門縁より0〜15cm、cT3〜4かつ/またはN＋でM0、ECOGのPS 0〜2）114例に、45〜50.4Gyの放射線照射と経口tegafur（FT）1,200mg/日、28日連続投与による術前放射線化学療法を5〜6週間かけて施行した。このうち52例の患者には、2001年5月〜2002年10月に、術前放射線化学療法の直前に短期間FOLFOX 4を実施した。すなわち、day 1にL-OHP 85mg/m²、およびLV 200mg/m²を静注し、5-FU 400mg/m²をbolus静注後、5-FU 600mg/m²を22時間かけて持続静注、day 2にはL-OHP以外をday 1と同様に投与した。これをday 1開始、およびday 15開始の2サイクル施行した。その後、術前放射線化学療法の完了から4〜6週間後に外科的切除を施行した。手術切除標本の病理検査は、直腸壁と直腸周辺組織に関してT、Nステージを評価した。患者背景、腫瘍の特性について、治療方法（FOLFOX 4施行群、FOLFOX 4未施行群）ごとに解析した。
　FOLFOX 4施行群（52例）において、pT0へのダウンステージング率は、FOLFOX 4未施行群（62例）に比較して有意に増加した（29％ vs 8％、p=0.006）。またT分類における総ダウンステージング率は、FOLFOX 4施行群において75％、FOLFOX 4未施行群においては58％であった（p=NS）。N分類における総ダウンステージング率は、FOLFOX 4施行群において40％、FOLFOX 4未施行群で42％であった（p=NS）。T分類における2カテゴリー以上のダウンステージング率はFOLFOX 4施行群で有意に高かった（44％ vs 24％、p=0.029）。
　本試験の結果により、局所進行直腸癌患者においてFTを用いる術前放射線化学療法を施行する前にFOLFOX 4を短期間導入する治療法は、pCR達成率を有意に上昇させることが示された。FOLFOX 4施行群の44％がpT0〜1へダウンステージングしたことは、肛門直腸括約筋温存プロトコールを促進する外科的アプローチに革新的な影響を及ぼすと思われる。

　進行直腸癌に対するneoadjuvant治療として、術前放射線治療（RT）よりも放射線化学療法（CRT）がより有効である事が大規模な比較試験で示唆され（Bosset JF, et al., J Clin Oncol. 2005; 23(24): 5450-5451）、また術前治療でCRに近い効果の得られた症例は予後がよいと報告されている（Guillem JG, et al., Ann Surg. 2005; 241(5): 829-836）。
　このように近年では、CRTにおいて併施される化学療法の内容を工夫し、治療効果を上げようとする報告が増えている。特に、進行大腸癌の化学療法で評価を受けた薬剤の組み合わせを応用する事が検討され、pT0が得られる率は、RT単独で10％に満たないものが、LV/5-FUや経口抗癌剤との併用で15〜30％程度に、さらにL-OHPやCPT-11を上乗せすることで、より良好な成績が報告されつつある。
　本論文では経口抗癌剤を用いたCRTに加え、inductionとしてFOLFOX 4を行う事で、pT0率は8％から29％、pT0〜1率は23％から44％と上昇したが、術後の副作用発現率は同等で、FOLFOX 4をinductionにする方法は、安全に、かつ有効に施行されうることを示した点が重要なポイントである。進行直腸癌に対し、化学療法のinduction＋CRTという術前治療の評価について今後の追試が待たれる。

監訳・コメント： 帝京大学ちば総合医療センター　幸田 圭史（外科・教授）