進行・再発胃癌に対するdocetaxel+TS-1併用療法の第II相試験
Yoshida K, et al., Clin Cancer Res 2006; 12(11): 3402-3407
本研究は、新規経口fluoropyrimidineであるTS-1とdocetaxel(TXT)の併用療法の、進行・再発胃癌に対する有効性と毒性を評価した単センター多施設共同第II相試験である。
2002年6月〜2004年7月に、組織学的に確認された切除不能の進行・再発胃癌患者(化学療法歴なし、あるいはtaxane系薬剤またはTS-1以外のレジメによる補助化学療法を1種類施行したが試験参加登録4週間以上前に終了している患者、年齢20〜75歳、ECOGのPS≦2、余命3ヵ月以上と考えられる)48例を登録し、以下の治療を行った。すなわち、day 1の朝にTXT 40mg/m2を1時間かけて点滴静注、TS-1 80 mg/m2/日をday 1〜14まで連日経口投与、その後1週間休薬期間を設けた(3週1サイクル)。TS-1については1サイクルごとの毒性評価(NCI-CTC基準)に応じて50mg/m2まで減量した。Day 1のTXTとTS-1の投与は同時に開始した。治療は腫瘍の進行または忍容し難い毒性、患者の治療拒否、また医師の判断により治療が中止されるまで続けた。主要評価項目は奏効率であった。
被験者の年齢中央値は65歳(25〜75歳)であり、施行された治療総サイクル数はのべ272であった(中央値4サイクル[1〜17サイクル])。CRを得られた例はなかったが、27例にPRを得、全奏効率(RR)は56.3%であった(95%CI 38〜66%)。18例(37.5%)がSD、3例(6.3%)がPDであった。したがって腫瘍制御率(CR+PR+SD)は93.8%(95%CI 83〜98%)であった。中央値20.1ヵ月の追跡において、生存期間の中央値(MST)は14.3ヵ月(95%CI 10.7〜20.3ヵ月)、無進行生存期間の中央値(TTP)は7.3ヵ月であった(95%CI 4.3〜10.0ヵ月)。NCI-CTCによるグレード3〜4の血液毒性では好中球減少(58.3%)、白血球減少(41.7%)、発熱性好中球減少(8.3%)、貧血(8.3%)の発現率が高かった。またグレード3の非血液毒性では、食欲不振(14.6%)、口内炎(8.3%)、悪心(6.3%)の発現率が高かった。グレード4の非血液毒性は報告されなかった。またすべての治療関連毒性は対処可能であった。
本研究により、TXT+TS-1併用療法は、進行あるいは再発胃癌において非常に有効であり、忍容性も良好であることが示された。今後、無作為化第II、III相試験においてさらなる検討が必要である。
進行・再発胃癌に対するfirst line protocolとしてのTS-1+α(TS-1 combination)と その評価
TS-1が本邦において承認を得てから早7年が経過した。進行・再発胃癌に対するfirst line protocolとして、TS-1+α(TS-1 combination)がその抗腫瘍効果、忍容性、利便性から最も有望であることはもはや衆目の一致するところであり、最近は欧米での評価も盛んである。
さてこのTS-1 combinationにおけるbest αが何であるかという問いかけに対して、本第II相試験報告は大きなインパクトを与えた。MSTはfirst lineにfailureした後のsecond line以降に大きな影響を受けるが、14ヵ月を超える成績は最近の胃癌化学療法における報告のなかでも優れており、また7.3ヵ月というTTPは卓越している。外科グループ主導の臨床試験らしく、(その取扱いと評価方法は今後の課題でもあると考えられるが)手術へ移行した症例を約4分の1含むこと、半数近くの症例がRECISTの評価対象になり難い腹膜転移巣を有していたことが、本臨床試験の特徴と言えるかもしれない。時をほぼ同じくしてYamaguchi K, et al.により、休薬期間のみが異なるTS-1+TXTの第I/II相試験報告がなされている(Br J Cancer 2006; 94(12): 1803-1808)。本報告と比較すると、MSTはほぼ同一であるが、TTP、RRは若干異なる。患者背景の相違に起因するものと考えられるが、今後の対象症例数を増やした無作為化第II相、III相試験の進捗が望まれる。また、TXTより1年遅れで承認されたtaxane系薬剤であるpaclitaxelとTS-1のcombinationの第II相試験の最終結果も近々明らかにされてくるであろう。
監訳・コメント: 京都府立医科大学 上田 祐二(消化器外科・講師)