論文紹介 | 監修:京都大学大学院 医学研究科 坂本純一(疫学研究情報管理学・教授)

9月

未治療転移性結腸・直腸癌患者におけるLV/bolus 5-FU+CPT-11(低用量IFL)療法と静注LV/5-FU+L-OHP(FOLFOX 4)療法の無作為化比較試験:A North American Intergroup Trial

Goldberg RM, et al., J Clin Oncol. 2006; 24(21): 3347-3353

 転移性結腸・直腸癌患者のfirst line治療としてLV+CPT-11およびbolus 5-FU(IFL)療法が行われ、39%の奏効率(RR)と7ヵ月の無増悪生存期間(TTP)、14.8ヵ月のOSが得られる結果(Saltz et al. N Engl J Med, 343: 905-914, 2000)となり、2000年3月FDAにより転移性結腸・直腸癌のfirst line治療として認可された。
 しかしその後のIntergroup N9741試験では、転移性結腸・直腸癌患者に対し標準量のLV/bolus 5-FU+CPT-11がfirst line治療として投与されたが、グレード3以上の毒性発現率が高く、治療開始60日以内死亡も高率に認められた。
 このため本試験ではIntergroup N9741試験でのIFL療法の平均的dose intensityを参考にし、5-FUとCPT-11の開始用量を20%減量したレジメ(rIFL)を採用、FOLFOX 4との比較を行った。TTPを主要評価項目とし、併せてRR、OS、毒性も検討した。
 2001年4月〜2002年4月に、北米の5つの共同研究グループから305例が登録された。なお、NCCTG Data Safety Monitoring Committeeは、患者が予め定められた中止基準を超える際には、中間解析時点での登録中断を予定とした。
 組織学的に証明された治癒切除不能結腸・直腸癌患者305例(18歳以上、ECOGのPS≦2、推定余命が12週以上)を2群に無作為化割り付けし、以下の化学療法を施行した。rIFL 群(151例)は、day 1、8、15、22/42daysにLV 20mg/m2およびCPT-11 100mg/m2(IFLより20%減量)を静注、5-FU 400mg/m2(IFLより20%減量)をbolus投与した。FOLFOX 4群(154例)はday 1にLV 200mg/m2およびL-OHP 85mg/m2を静注、5-FU 400mg/m2をbolus投与後、5-FU 600mg/m2を22時間かけて持続静注、day 2にL-OHP以外をday 1と同様に投与した(2週間ごと)。腫瘍の進行、対処不能な毒性の発現、患者の同意撤回があった場合は治療を中止した。
 40週の経過観察期間中、増悪を示した症例は87.5%であった。TTP、RR、OSのすべてでFOLFOX 4群がrIFL群に比較し、有意に良好であった(rIFL vs FOLFOX 4:TTP 5.5ヵ月 vs 9.7ヵ月[p<0.0001]、RR 32% vs 48%[p=0.006]、OS 16.3ヵ月 vs 19.0ヵ月[p=0.026])。有害事象発現では悪心、嘔吐、下痢、発熱性好中球減少、脱水、治療開始後60日以内死亡の各発現率において、両群間で有意差はなかった。感覚神経障害と好中球減少の発現率は、rIFL群に比較してFOLFOX 4群で有意に高かった。両群とも75%がsecond line治療を受け、rIFL群の58%がL-OHPベース、FOLFOX 4群の55%がCPT-11ベースのsecond line治療に切り替えた。
 本試験の結果、FOLFOX 4群はrIFL群に比較して、TTP、RR、OSにおいて優っていた。これらfirst line治療におけるFOLFOX 4群の優位性は、second line治療でCPT-11あるいはL-OHPを使用しても維持された。FOLFOX 4群、rIFL群ともに有害事象のマネージメントは良好であった。

考察

転移性結腸・直腸癌の第二世代化学療法における標準療法の確定

 Saltzらにより転移性結腸・直腸癌の新たな化学療法としてIFL療法が登場した。これ以降、LV/5-FUにCPT-11、L-OHPを併用する第二世代化学療法が転移性結腸・直腸癌の標準療法の座をせめぎ合う状況が続いてきた。
 Intergroup N9741試験で米国の主流であったbolus 5-FUをベースとした併用療法と、欧州の主流であるinfusional 5-FUをベースとした併用療法との決戦が始まり、その後のGERCOR試験(Tournigand C, et al. J Clin Oncol, 22: 229-237, 2004)などの臨床試験の結果によりinfusional 5-FUをベースとするFOLFOX療法やFOLFIRI療法が転移性結腸・直腸癌の標準化学療法となってたきた。
 本試験では前回のIntergroup N9741試験でIFL療法の有害事象発現が高率であったことなどを考慮し、dose intensityをやや下げることにより、安全性を高め、かえって有用性を高めることができるのではないかと、rIFL 療法とFOLFOX 4療法との有効性、安全性の比較検討が行われ、FOLFOX 4療法の有用性が報告された。
 さらに本試験結果と GERCOR試験を並べて検討してみると、rIFL療法とFOLFIRI療法の有害事象、有効性も間接的に比較可能となり、有害事象では大きな差はないが、OS、TTPなどの有用性でFOLFIRI療法はFOLFOX療法は同等の成績を示したが、rIFL療法はやや劣る結果であった。
 これらの試験結果から、FOLFOX療法、FOLFIRI療法は、転移性結腸・直腸癌の第二世代化学療法における標準療法の座を勝ち取るに至ったといえるのではないだろうか。

監訳・コメント: 高知医療センター 辻 晃仁(化学療法科・科長)

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