論文紹介 | 監修:京都大学大学院 医学研究科 坂本純一(疫学研究情報管理学・教授)

9月

治療抵抗性の進行結腸・直腸癌患者に対するLV/5-FU+bevacizumab併用療法の多施設第II相試験:An NCI Treatment Referral Center Trial TRC-0301

Chen HX, et al., J Clin Oncol. 2006; 24(21) : 3354-3360

 本試験は米国NCI Treatment Referral Centerの指揮の下、全米において標準的化学療法後に進行の確認された結腸・直腸癌患者にLV/5-FU+bevacizumab治療を行い、有効性および安全性を評価した多施設第 II 相試験である。
 2003年7月〜10月に全米25州32施設において350例が登録され、実際に339例が治療を受けた。対象はCPT-11ベース、L-OHPベースの化学療法両方で進行の確認された結腸・直腸癌患者で、18歳以上、PSが0〜2、血栓塞栓症のないものに限られた。LV/5-FUと併用してbevacizumab 5mg/kgを2週間ごとに投与した。併用したLV/5-FUレジメはRoswell Park regimen(73%)かde Gramont regimen(27%)であり、担当医師が選択した。Roswell Park regimenは、day 1にLV 500mg/m2を2時間かけて点滴静注する間に5-FU 500mg/m2をbolus投与、これを6週連続投与、2週休薬で1サイクルとした。de Gramont regimenはday 1および2にLV 400mg/m2を点滴静注、5-FU 400mg/m2をbolus投与し、続けて22時間かけて5-FUを600mg/m2持続静注した。これを2週間ごとに施行した。治療は、腫瘍の増悪または忍容し難い毒性の発現までは継続した。
 100例を集積予定の試験であったが15週の間に希望者が殺到したため患者支援団体と協議の結果、製薬企業とFDAの協力を得て250例追加して合計350例を登録することに変更された。一次評価項目は、効果判定がなされた最初の100例を対象とした奏効率(CR+PR)であり、すべての患者に対して毒性と生存の追跡が行われた。症例追跡の中央値は14.2ヵ月(12.7〜17.3ヵ月)であった。治療サイクルの中央値は2サイクルであった(1〜8、1サイクル8週間として)。最初の100例における奏効率は担当医の評価によると4%(95%CI 1.1〜9.9%)であったが、施設外校閲の結果1%(95%CI 0〜5.5%)となった。PFSの中央値は3.5ヵ月(95%CI 2.1〜4.7ヵ月)であり、OSの中央値は9.0ヵ月(95%CI 7.2〜10.2ヵ月)であった。有害事象の発現は、以前に施行された結腸・直腸癌患者におけるbevacizumab試験と同程度であった。併用したLV/5-FUレジメンによる毒性の差は認められず、グレード3〜4の出血発現率は5%であり、そのうち3.8%が消化管出血であった。他の有害事象(高血圧、血栓症、腸穿孔)は以前に施行されたbevacizumab試験と同程度に発現した。
 本試験において、CPT-11ベース、L-OHPベースの化学療法後に進行が確認された結腸・直腸癌患者にとって、third-line以降におけるLV/5-FUと bevacizumab の併用療法の奏効率は低かった。生存期間の延長に対する有用性は比較試験ではないので不明であった。

考察

15週間で350症例を集める米国の臨床試験システム

 標準治療であるCPT-11をベースとしたFOLFIRIとL-OHPをベースとしたFOLFOXの両方の治療に耐性となってしまった場合、その後の化学療法レジメンをどうするべきかは実地医療の場で多くの臨床医が悩んでいるのが現状である。この研究はこのような患者層を対象としており結果をおおいに参考にしたいところであるが残念ながらこの研究では奏効率は低く有用性は証明されなかった。しかしthird line以降で9ヵ月の50%生存期間は決して短くないようにも感じる。
 ただこの論文でむしろ注目したいのは、試験の結果ではなくこのようなthird lineの治療に対するアメリカの臨床試験の体制である。この論文の中でも随所に述べられているが、通常の臨床試験の対象とはならず、もはや標準的な治療もない患者層に対し、治験を行う枠組みを使って新薬を提供し患者を救済することをもう1つの重要な目的としている。このように臨床試験データを取ることと、治療法のなくなった患者に新薬を提供する患者サービスを両立させてしまっているのである。そのためもあってか、たった4ヵ月で32施設で350症例を集めている。
 地域の臨床医が実際のところ一番困っているが、臨床試験の対象になりにくい、本邦であれば“もやもや”としたまま残ってしまうような課題に対してあっという間に白黒つけてしまうシステムを構築していることに感心させられた。

監訳・コメント: 神戸大学医学部附属病院 田村 孝雄(消化器内科・講師)

このページのトップへ
  • トップ
  • 論文紹介 | 最新の論文要約とドクターコメントを掲載しています。
    • 2008年
    • 2007年
    • 2006年
    • 2005年
    • 2004年
    • 2003年
  • 消化器癌のトピックス | 専門の先生方が図表・写真を用いて解説します。
  • WEBカンファレンス | 具体的症例を取り上げ、治療方針をテーマに討論展開します。
  • 学会報告 | 国内外の学会から、消化器癌関連の報告をレポートします。
  • Doctor's Personal Episode | 「消化器癌治療」をテーマにエッセイを綴っています。
  • リレーエッセイ | 「消化器癌」をテーマにエッセイを綴っています。