論文紹介 | 監修:京都大学大学院 医学研究科 坂本純一(疫学研究情報管理学・教授)

10月

転移性結腸・直腸癌のfirst line治療としてのLV/5-FU+L-OHPの4日間のchronotherapyと2日間通常投与の比較第III相試験:EORTC Chronotherapy Group

Giacchetti S, et al., J Clin Oncol. 2006; 24(22): 3562-3569

 かつて転移性結腸・直腸癌患者に対して施行された2つの無作為化試験では、サーカディアンリズムに基づいた化学療法によって、一般的な5日間の一定速度投与による化学療法と比較して忍容性と抗腫瘍効果の改善がみられた。本試験ではLV/5-FU+L-OHP の4日間のクロノセラピー(chronoFLO4)が、同薬剤の2日間の通常療法(FOLFOX 2)に比べ生存率を10%向上させるとの仮説を立て、本検討を行った。
 1998年10月から2002年2月にかけて10ヵ国36施設から登録された、564例の転移性結腸・直腸癌患者(18〜76歳、計測可能転移病変の最大直径>20mm、PS≦2、転移病変に対する化学療法・放射線療法の経験がない、転移診断前の補助化学療法は6ヵ月以上前に終了)を、FOLFOX 2群とchronoFLO4群に282例ずつ割り付けた。両群ともLV 1,200mg/m2、 5-FU 3,000mg/m2、L-OHP 100mg/m2を以下のごとく投与した。FOLFOX 2群:day 1に2時間かけLVとL-OHPを静注後、5-FUを22時間かけ静注。Day 2はL-OHP以外をday 1と同様に投与。2週間で1サイクルとした。chronoFLO4群:LVと5-FUを22時15分〜9時45分に投与(ピーク:4時)、L-OHPを10時15分〜21時45分に投与(ピーク:16時)。4日間投与10日休薬で1サイクルとした。両群とも患者の毒性発現状況に合わせ5-FUの用量を段階的に増量した。
 試験開始時の患者特性は両群で同等であった。生存期間の中央値はchronoFLO4群で19.6ヵ月(95%信頼限界[CL]18.2〜21.2)、FOLFOX 2群で18.7ヵ月(95%信頼CL 17.7〜21.0)であった(p=0.55)。主な用量規定毒性はchronoFLO4群で下痢、FOLFOX2群で好中球減少であった。生存期間予測因子の分析では、性別が単独の最重要因子であることが示された(p=0.001)。chronoFLO4群での女性の早期死亡リスクはFOLFOX 2群に比較して38%高く、生存期間の中央値は各々16.3ヵ月、19.1ヵ月であった(p=0.027)。chronoFLO4群での男性の死亡リスクはFOLFOX 2群に比較して25%低く、生存期間の中央値は各々21.4ヵ月、18.3ヵ月であった(p=0.018)。
 両群とも同程度の生存期間中央値(18ヵ月以上)を達成し、有害事象は忍容されるものであった。chronoFLO4群は男性の生存期間を有意に改善した。LV/5-FU+L-OHPの最適投与スケジュールの性別依存性については、患者の体内時計に関する決定因子を臨床の場で応用して研究することが求められる。

考察

大腸癌に対するFOLFOXのクロノセラピーの効果とその機序

 今回のデータは、全体から見ると両群で生存期間に差がないという結果であったが、男性ではchronoFLO4群が、女性ではFOLFOX 2群が、それぞれ有意に生存期間が長かったという興味深い解析がなされている。またグレード3以上の毒性でも、血液毒性はFOLFOX 2群、下痢やハンドフット症候群などはchronoFLO4群に有意に多く出現するという明瞭な差を認めている。使用する薬剤の種類と総投与量が同じにもかかわらず、性別での効果の差や毒性の種類による差が存在すること自体が、クロノセラピーの何らかの影響を示しているものと考えられる。著者らは体内時計遺伝子や体内時計調節遺伝子が細胞周期、アポトーシス、薬剤代謝などと関連すると推察している。クロノセラピーに関しては、まだまだ議論が多いところではあり、今後さらなる臨床試験が必要ではあるが、こういったアプローチは化学療法における効果の機序の解明にもつながる可能性もあり、極めて興味深いものと考えられる。

監訳・コメント: 金沢大学がん研究所 高橋 豊(腫瘍外科・助教授)

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