論文紹介 | 監修:京都大学大学院 医学研究科 坂本純一(疫学研究情報管理学・教授)

10月

ステージIIIBとIIICの結腸癌において転移陰性リンパ節個数の増加は長期生存成績の向上と独立した相関がある

Johnson PM, et al., J Clin Oncol. 2006; 24(22): 3570-3575

 本研究では、ステージIII結腸癌患者の生存に、転移陰性リンパ節個数が及ぼす影響について検討した。
 1988年1月〜1997年12月にステージIII結腸癌に対する手術を受けた患者(18歳以上)を米国NCIのSurveillance, Epidemiology and End Results(SEER)の癌登録データより確認し、20,702例(男性48%、女性52%)について、転移陰性および陽性リンパ節個数を検討した。AJCC分類に基づき患者を以下の3つのサブステージに分けた:AJCC ステージIIIA(T1/2 陽性リンパ節3個以下)、AJCC ステージIIIB(T3/4、陽性リンパ節3個以下)、AJCC ステージIIIC(陽性リンパ節3個以上)。癌関連生存は陰性リンパ節個数ごと3個以下、3個以下、4〜7個、8〜12個、13個以上に分けて検討した。癌関連生存に及ぼす陰性リンパ節個数の影響を多変量解析するために比例ハザードモデルを構築した。
 サブステージの内訳は、ステージIIIAが8.3%(1,722例)、ステージIIIBが60.4%(12,504例)、ステージIIICが31.3%(6,476例)であった。ステージIIIBとIIICの患者については、陰性リンパ節個数が増加するに従い癌関連死亡率が有意に低下した(p<0.0001)。累積5年死亡率はステージIIIBの患者では、陰性リンパ節が13個以上の患者で27%であり、3個以下の患者で45%であった(p<0.0001)。ステージIIICの患者では、陰性リンパ節13個以上で42%、3個以下で65%であった(p<0.0001)。ステージIIIAの患者では陰性リンパ節個数と癌関連生存の間に相関が認められなかった。陽性リンパ節個数ならびに陰性リンパ節個数について、比例ハザードモデルを用いて多変量解析を行ったところ、陰性リンパ節個数が多いことと癌関連生存成績の向上は独立した相関関係にあるという結果が得られた。
 ステージIIIBとIIICの結腸癌患者において、転移陰性リンパ節個数は転移陽性リンパ節個数とは独立した重要な予後因子であった。

考察

転移陰性リンパ節個数の予後因子としての臨床的意義付けは?

 TNM分類ではすでにN分類に転移陽性リンパ節個数が採用されていたが、進行癌ではD3郭清が普及している日本においても『大腸癌取扱い規約 第7版』で個数によるリンパ節分類を採り入れ、転移陽性リンパ節個数は予後因子と認められた。本論文ではさらに転移陰性リンパ節についても、その個数が多いほど生存成績が優れていることから予後因子とした。米国での癌登録データ解析から得られた結果であるが、膨大な症例数である反面、化学療法の有無、手術手技、特に郭清範囲や摘出リンパ節個数の施設間較差などが不明である。著者らも臨床(切除範囲、標本からのリンパ節採取)に対する真摯さの違いが根底にあることをコメントしているが、詳細のない術式をベースにしたデータでは、転移陰性リンパ節個数が多い一番の要因は単に郭清範囲が広かったのではないかと疑問がわく。リンパ節個数など臨床的因子の再検討にも目を向けられていることは勇気づけられるところであるが、郭清の程度、化学療法の有無など治療内容をそろえた上での検討が必要である。

監訳・コメント: 愛知県がんセンター中央病院 平井 孝(消化器外科部・医長、外来部・部長)

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