論文紹介 | 監修:京都大学大学院 医学研究科 坂本純一(疫学研究情報管理学・教授)

11月

結腸・直腸癌由来肝転移の化学療法後CR:CRは治癒を意味するのか?

Benoist S, et al., J Clin Oncol. 2006; 24(24): 3939-3945

  結腸・直腸癌由来肝転移を有する患者の多くは全身化学療法を受ける。本試験では、結腸・直腸癌患者において化学療法後に画像診断された肝転移のCRについて重要性を検討することを目的としている。
  1998〜2004年に単施設において結腸・直腸癌由来肝転移に対して治療を受けた患者586例のうち、以下の基準を満たす38例について検討した。(1)化学療法前の肝転移数が10個未満、(2)化学療法後のCTスキャンと超音波検査にて1〜数ヵ所の肝転移が消失した、(3)画像診断後4週間以内に手術および術中肝超音波検査をした、(4)肝以外の病変なし、(5)肝切除あるいは経皮ラジオ波療法歴なし、(6)術後1年間以上追跡した。
  画像解診断は、三相ヘリカルCTスキャンと腹部超音波検査を術前化学療法前および術後化学療法4サイクル施行ごとに行った。化学療法はfirst lineとして、9例にLV5FU2レジメ、17例にLV5FU2+L-OHPレジメ、12例にLV5FU2+CPT-11レジメを6〜8サイクルかけて肝転移の消失まで行った。First lineにおいてグレード3〜4の毒性が発現した場合、化学療法への反応がPR(<25%)の場合、憎悪が認められた場合にsecond lineを施行した。術後の化学療法はグレード3〜4の毒性が発現しない限り6〜8サイクル施行した。追跡は最初の2年間は4ヵ月ごとに、その後は6ヵ月ごとに行った。再発は追跡のための来院時に、臨床検査と肝超音波検査にて確認した。腹部および胸部CTスキャンは8ヵ月ごとに施行した。
  治療前画像診断では、被験者の38例で183個の肝転移が認められ、術前化学療法後、そのうちの66個がCTスキャン画像では消失していた。手術時に、CTスキャン画像では診断できなかった肉眼的残存病巣が、CRとなった66個中20個残存していた。また、手術時に、肉眼的残存が認められなかった46個の肝転移から15個の病巣を切除したが、病理学的に検討すると残存が15個中12個で認められた。手術時に肉眼所見が得られず、術中切除しなかった31個の肝転移病巣は、追跡1年後、そのうち23個に同所再発が認められた。全体として、肉眼的あるいは画像診断上の残存肝転移病巣、あるいは同所での早期再発は、画像診断にてCRと判断された66個のうち55個(83%)で認められ、治癒を得られたのは11個(17%)に過ぎなかった。
  結腸・直腸癌由来肝転移に対する術前化学療法を受けた患者の多くでは、CTスキャン上で判断されたCRが必ずしも治癒を意味しないことが本試験により示された。

考察

今後は化学療法と外科切除のコスト・ベネフィット比較が必要

  切除不能大腸癌症例に対する化学療法の成績は近年急速に進歩しており、oxaliplatinやirinotecanなどの薬剤を基本レジメンである5-FU(5-fluorouracil)+ロイコボリン(folinic acid)と組み合わせることにより約40から50%の奏効率(CR+PR)が得られ、50%生存期間は15から20ヵ月に延長したとされる。
  切除不能大腸癌肝転移症例を化学療法により切除可能としたサルベージ手術の成績はBismuthらにより最初に報告されたが、最近は切除可能な症例に対しても術前補助療法として行われており、MD Anderson がんセンターでは術前化学療法の80%は切除可能例に対して施行されている。本論文では586例の術前補助化学療法(5FU/LV+oxaliplatin、irinotecan)施行患者のうち、画像(螺旋CT検査)上、完全緩解(CR)と診断された大腸癌肝転移病巣66個(38例、6.5%)について、おそらく前向きにデータを収集し解析している。開腹時の術中超音波検査で66個のうち20個(30%)の腫瘍が発見された。術中検査で発見されなかった(術中検査でもCRであった)残り46個の病変のうち、15個は切除され、31個は切除されず術後フォローされた。15個のうち12個(80%)で生きた腫瘍細胞が見出され、31個の切除されなかった転移巣の23個(74%)で1年以内の再発が確認された。よって66個の術前CR病巣のうち、手術1年後の時点で完全治癒と考えられるのはわずか11個(17%)ということになる。全化学療法治療症例中CRは6.5%であるから、全体の約1.1%(0.17×0.065)が化学療法で治癒したことになる。
  ここで注意しなければならないのは、本研究では治療前転移巣数が10個以上の症例は除外されていること、切除されなかった病変の経過観察期間が1年であることである。高度進行例を含め、経過観察期間をより長くすると治癒はさらに低率になると思われる。術前の補助化学療法については、副作用とコストの面からのデメリットがある。
  Oxaliplatinやirinotecanなどの薬剤を含むレジメンでは非癌肝組織の脂肪肝炎が一定の頻度で起こり、術後90日以内の死亡率が高まる可能性が示唆されている。また日本では化学療法薬価は手術の技術料に比較して高額である。CR率が1%程度の全身化学療法を定期的に通院治療でうける場合と、外科切除をうけて約2週間入院治療する場合とで患者が得るものと失うもののバランスはどうであろうか。今後は化学療法と外科切除のコスト・ベネフィットを比較する必要がでてくると思われる。

監訳・コメント: 癌研有明病院 山本 順司(外科)

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