直腸癌治癒切除の予測における術前MRI診断の精度:前向き観察試験MERCURY研究
MERCURY Study Group, BMJ. 2006; 333(7572): 779-784
直腸癌切除術において、切除縁である直腸間膜の1mm以内に腫瘍が存在することは、局所再発と予後不良に関する強い予測因子となる。このため、直腸癌に対して最適な治療を行うためには直腸間膜と腫瘍の位置関係についての評価を含めた詳細な術前評価が求められる。本試験では質の高い画像解析・切除術・病理学による多角的アプローチを用いて、直腸癌の切除縁の1mm以内の腫瘍の有無の予測を指標としたMRIの術前病期診断の精度、有効性ならびに再現性について検討した。
2002年1月から2003年10月にかけて、ヨーロッパ4ヵ国の11施設において生検により直腸腺癌と診断された全病期の患者で、術前MRI評価および組織病理学的評価についてのデータを得られた408例を対象とした。手術検体の切除縁と腫瘍の距離を組織学的検査で確認することで、治癒切除の予測におけるMRI診断の精度をプロスペクティブに評価した。
術前に放射線治療あるいは放射線化学療法が行われたのは97例(24%)、術式は前方切除294例(72%)、腹会陰式86例(21%)、Hartmann手術23例(6%)、拡大切除5例(1%)であった。患者1人あたり切除されたリンパ節の中央値は12個であった。
組織病理検査の結果、408例のうち354例で1mm以上の切除縁が認められた(87%、95%CI 83〜90%)。このうちMRI診断時に1mm以上の切除縁が予測されていたのは354例中327例であった(特異度92%、95%CI 90〜95%)。術前MRI診断では349例で切除縁は腫瘍陰性と予測したのに対して、手術時にも陰性であったのは327例であった(94%、95%CI 91〜96%)。
手術検体を組織病理学的にグレード分けすると、80%がcomplete あるいはmoderate(408例中328例)であった。患者1人あたり得られたリンパ節の中央値は12個であった。術前MRI診断では349例で切除縁は腫瘍陰性と予測したのに対して、手術時にも陰性であったのは327例であった(94%、95%CI 91〜96%)。
高分解能MRIによる画像診断では切除縁の腫瘍の有無を正確に予測できる。この診断技術は多くの施設で治癒切除の予測において再現性が高く、集学的治療チームに対して治癒切除困難であることを示すことができる。これにより、術前治療を受けるかどうか、患者の選択肢が広がると思われる。
直腸癌の切除縁のMRIによる評価は治癒切除の予測に有用である
術前の放射線治療や放射線化学療法の発達により直腸癌の術後成績は大きく向上しているが、切除縁の1mm以内に腫瘍が存在することは、局所再発と予後不良の予測因子であることが明らかにされている。このため、術前に切除縁の腫瘍の有無を正しく診断することが、正しい治療方針決定と患者の予後予測に重要である。
この研究では切除縁1mm以内の腫瘍の有無を診断する上でのMRIの有用性を多施設で評価しており、MRIの診断精度と施設間差すなわち再現性を検討している。その結果、検討した408例のうち354例で1mm以上の切除縁が認められ、そのうちMRIは327例(特異度92%、95%CI 90〜95%)を正しく診断した。またMRIが1mm以上の切除縁を予測した349例のうち、病理学的に腫瘍陰性であったのは327例、すなわち陰性的中率が94%(95%CI 91〜96%)であった。全体の正診率は88%であった。一方MRIの感度は59%、陽性的中率は54%であり、検出感度は高くなく偽陽性も多く存在する。高分解能MRIは術前の切除縁の評価に最良の方法で高い再現性を誇るが、画像の解像力と質的診断には限界がある。
画像診断の技術的進歩は著しく、空間分解能が大きく向上して、この研究のように1mmを正確に評価できる。最近、臨床で用いられるようになった高磁場MRIを用いればさらに詳細な評価が可能になる。新たな撮像法の開発によって質的にも正確な評価が可能になれば、術前の治療方針決定と予後予測における有用性が増すものと思われる。
監訳・コメント: 群馬大学大学院医学系研究科 織内 昇(画像核医学・助教授)