チミジンホスホリラーゼ発現は転移性結腸・直腸癌患者のcapecitabine+CPT-11療法に対する治療効果と関係する
Meropol NJ, et al., J Clin Oncol. 2006; 24(25) : 4069-4077
本試験は転移性結腸・直腸癌(mCRC)患者のfirst line 治療としてのcapecitabine+CPT-11療法の臨床的効果と毒性を評価することを目的とした第II相試験である。また、capecitabineから5-FUへの変換に関与し、結腸・直腸癌組織において高発現しているチミジンホスホリラーゼ(TP)、5-FUの主要標的分子であるチミジレートシンターゼ(TS)、5-FU不活性化に関与するジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ(DPD)の発現と抗腫瘍活性の関連を評価することも目的としている。
組織学的に大腸癌と診断された未治療のmCRC患者(18歳以上)で、RECISTにより1ヵ所以上の効果判定が可能であった67例を対象とした。治療はday 1とday 8にCPT-11 125mg/m2/日を90分かけて点滴静注し、day 2からday 15まで14日間連続でcapecitabine 1,000mg/m2/回を1日2回経口投与した(1サイクル21日)。これを15例に対して施行したところ忍容不能な消化管毒性が発現したためそれ以後に治療を行った52例の投与開始用量は、CPT-11を100mg/m2/日、capecitabineを900mg/m2/回に減量した。原発巣と転移巣組織のTP、TS、DPDの蛋白質発現を免疫組織化学法により、TP、TS、DPDの遺伝子発現をRT-PCR法により定量した。治療効果はRECISTにより判定した。
RRは45%であった(67例中30例)。免疫組織法により、OSがTP発現と有意に関係していることが示された。原発巣・転移巣のどちらで検出されても、TP陽性患者はTP陰性患者に比較して生存期間中央値が有意に長かった(原発巣:TP陽性 vs TP陰性=28.2ヵ月 vs 14.9ヵ月、p=0.045、転移巣:26.6ヵ月 vs 9.8ヵ月、p=0.001)。奏効率はTP発現と関連していたことが認められた(原発巣:オッズ比 4.77、95%CI 1.25〜18.18、転移巣:オッズ比 8.67、95%CI 0.95〜79.1)。原発巣でのTP遺伝子の発現も治療反応性と関連があった。DPDとTSの発現は、蛋白と遺伝子の双方ともcapecitabine+CPT-11療法に対する治療反応性と関連を示さなかった。
これらのデータにより、capecitabine+CPT-11療法はmCRCに対して効果的なレジメであることが示された。原発巣と転移巣のどちらについても、バイオマーカー分析は多くの施設の設備において施行可能である。TP発現は治療反応性を予測する可能性が示された。
Thymidine phosphorylaseはcapecitabineの治療予測因子と考えられるか?
この論文は、転移性結腸・直腸癌のfirst line治療としてのirinotecan(IRI)とCapecitabine(Cape)の併用療法の第二相臨床試験である。結果は、奏効率が45%、生存期間中央値(MST)が20.5ヵ月とFOLFIRI療法と匹敵する成績であった。この論文ではcorrelative StudiesとしてのTS活性とCapeの治療効果の関係が主な内容となっている。現在、大腸癌治療にはkey drugとして5-FU系薬剤、oxaliplatin、IRIと分子標的薬剤等があるが、事前にそれらの薬剤の効果や予後を予測するための確実な生物学的マーカーは未だ存在しない。しかし、本論文では原発巣と転移巣から得た組織において5-FU系薬剤の効果と関係の深いTP、TS、DPD活性を測定することで、その治療効果との関係を調べたところ、TP活性と奏効率、生存期間に深い関係があることが示された。これによってCape、あるいはCapeとIRI併用療法の効果が、手術標本などから事前に予測できる可能性が出てきたわけである。本邦にもTS-1等の有望な薬剤があるため興味深い結果である。しかし、もともとpolygenic な疾患である大腸癌に対しmonogenicな因子だけで確実な予測は困難と思われる事や、本試験の結果は限られた少ない症例数において得られたものであることから、この結果を将来のテーラーメード治療に反映させるためには、prospectiveで統計学的に十分な症例数で計画されたphase III試験において証明され、その結果が報告される事が待たれる。
監訳・コメント: 北海道大学大学院医学研究科 小松 嘉人(第3内科・講師)