論文紹介 | 監修:京都大学大学院 医学研究科 坂本純一(疫学研究情報管理学・教授)

11月

直腸癌における術前放射線療法と化学療法の併用の有用性

Bosset J-F, et al., N Engl J Med. 2006; 355(11): 1114-1123

  直腸癌患者にとって術前放射線療法は推奨される治療法である。本試験は、直腸癌治療における術前放射線療法および化学療法の併用、および術後化学療法の施行に関して評価した。
  1993年4月から2003年3月にかけて登録された直腸癌患者1,011例(1987年のUICC基準によるステージがT3あるいは治癒切除可能なT4M0、肛門縁より15cm以内に局在、WHOのPSが0あるいは1、80歳以下)を以下の4つの群に割り付けた:術前放射線療法群(252例)、術前放射線化学療法群(253例)、術前放射線療法+術後化学療法群(253例)、術前放射線化学療法+術後化学療法群(253例)。放射線療法は総照射量45Gy(1.8Gyを25回)を5週間にわたり後方骨盤照射した。化学療法では1コースにつき5-FU 350mg/m2/日およびLV 20mg/m2/日を5日間連続で経静脈投与した。術前化学療法は放射線療法の第1週と第5週に施行、術後化学療法は術後3〜10週後に開始し、3週間ごとに4コース施行した。手術は術前治療の3〜10週後に施行した。主要評価項目はOSであった。
  試験の結果、術前に放射線療法と放射線化学療法のいずれを施行したかどうか(p=0.84)、あるいは術後に化学療法を施行したかどうか(p=0.12)により、5年OSの有意差は認められなかった。4群全体の5年OSは65.2%であった。5年累積局所再発率は、術前放射線化学療法群で8.7%、術前放射線療法+術後化学療法群で9.6%、術前放射線化学療法+術後化学療法群で7.6%であったのに対し術前・術後とも化学療法を施行しなかった術前放射線療法群では17.1%であった(他の3群に対してp=0.002)。化学療法の完遂率は、術前に化学療法を施行した2群で82.0%、術後に化学療法を施行した2群で42.9%であった。
  放射線療法に加えて5-FUベースの化学療法を施行した患者においては、術前・術後の違いによる生存率の有意差はみられなかった。化学療法は術前・術後のいずれで施行しても局所コントロールに有用な効果を示すことが示唆された。

考察

術前放射線療法併用直腸癌手術に化学療法の追加は局所制御を向上させる

この試験は切除可能臨床的T3、T4直腸癌症例を対象として標準治療の術前放射線療法に対する5-FU/LVの併用を検討したものである。「術前放射線治療に化学療法を加えることで局所効果が増すか?」「術前化学療法、術後化学療法、あるいは両者併用が生存率を改善するか?」の2点を検証している。結論は「5年局所再発率は実施時期にかかわらず化学療法併用群が放射線単独群に比べて良好(8.6%対17.1%、p=0.002)であったが、化学療法併用の生存への寄与は認められなかった」というものである。術後化学療法については完遂率が42%にもかかわらず、2年無再発生存率と4年生存率は、やや差が見られ更なるフォローアップが必要としている。今後はオキサリプラチンや分子標的薬を含んだ化学療法の進歩に伴い更なる治療成績の向上が期待されている。切除可能直腸癌の治療戦略は我が国と欧米では大きな相違が見られる。本邦の側方郭清を含めた手術成績は一般的に欧米より優れた局所制御率を示しており、通常、術前放射線治療は実施されない。国内臨床試験NSAS-CC01ではStage III直腸癌においてUFTの生存率の向上が認められている。

監訳・コメント: 筑波大学大学院人間総合科学研究科 兵頭一之介(消化器内科・教授)

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