腫瘍遺伝子発現プロファイリングによるステージII結腸癌の予後予測
Barrier A, et al., J Clin Oncol. 2006; 24(29) : 4685-4691
本研究は、ステージII結腸癌に対するDNAマイクロアレイに基づいた予後予測因子(PP)を評価することを目的としている。また2004年にWangら(J Clin Oncol. 2004; 22(9): 1564-1571)が示した23遺伝子による予後特性サイン(prognosis signature: PS)を再評価した。
1996年〜2000年に手術を施行されたステージII結腸癌50例(男性27例、女性23例、平均年齢71歳、25例は遠隔転移あり、残る25例は60ヵ月以上再発なし)の腫瘍組織(病理学的に腫瘍組織の80%以上が腫瘍細胞であることを確認)からmRNAサンプルを調整し、Affymetrix HGU133 AGeneChipsにハイブリダイズさせ、Robust Multichip Average methodを用いて遺伝子発現をコンピュータ解析した。
50例の患者を25例ずつグループ1とグループ2に繰り返し無作為化し、グループ1のデータをtraining sets(TSs)としてモデル構築に用い、グループ2のデータをvalidation sets(VSs)としてモデル検証に用いた。TSsの患者の再発の有無により最も発現差のある30遺伝子(PPs)をそれぞれ選択し、それらの遺伝子データをdiagonal linear discriminant analysis(DLDA)に適用し構築した判別式によってVSs患者の予後予測精度を検証した。解析には、TSとVSを均等分割するsingle split validationのほか、無作為に不均等分割するMonte Calro cross validation(MCCV)の2つのスキームを用い、繰り返し検証した。
Single split validationでは、グループ1の患者から同定された30遺伝子のPPにより、グループ2の患者において精度80%、感度75%、特異度85%で予後予測が可能であった。MCCVでは、平均予後予測として精度76.3%、感度85.1%、特異度67.5%という結果が得られた。TSサイズを増やすことによって予後予測精度は向上した。30遺伝子のPSはTS/VSの分割によって大きく変動した。Wangらにより示された23遺伝子のPSを同様に評価したところ、その平均予後予測精度は67.7%を示した。
結果として、DNAマイクロアレイによる遺伝子発現プロファイリングは、ステージII結腸癌患者の予後予測を可能にすることが示された。また、本研究はマイクロアレイによるPPの性能評価に対する再サンプリング技術の有用性も示している。
ステージII結腸癌の予後予測の検証−遺伝子発現プロファイリングによる個別化医療実践への道
ステージII結腸癌は一般的に予後良好で、術後補助療法の有用性は検証されていないが、転移・再発をきたす一部の高リスク症例群に対しては、ASCO・NCCNガイドライン、及び本邦の『大腸癌治療ガイドライン 医師用 2005年版』で術後補助療法の適応が示されている。しかし高リスク症例群は、狭窄、穿孔、他臓器浸潤を伴うような症例とされているものの、まだ明確な基準は提唱されてない。
この論文は50例のステージII結腸癌の遺伝子発現プロファイルによって、その予後予測精度を検証したものである。原発巣には転移過程を反映する遺伝子発現プロファイルがプログラムされているというRamaswarmyらの理論に基づき、個々の症例の分子生物学的特性を反映した予後予測診断が可能となれば、高リスク症例群に対する効率的な補助化学療法など個別化医療の実践が期待できる。しかし、腫瘍のサンプリング方法、DNAマイクロアレイのplatformの種類、解析手法によって、PP遺伝子の内容、予測精度が変動することも知られるようになり注意深い検討が必要である。ここでは比較的少数例ではあるが、2つのvalidation schemeを用いたり、他の研究で報告された遺伝子セットを用いるなど解析に工夫が見られ、約80%の精度でステージII結腸癌の予後予測診断が可能としている。
今後はより多数症例でのprospectiveな臨床試験によって、予後予測の臨床応用のevidenceを証明することが必要である。
監訳・コメント:
大阪大学大学院医学系研究科 竹政伊知朗
(外科系臨床医学専攻消化器外科学講座・助手)