論文紹介 | 監修:京都大学大学院 医学研究科 坂本純一(疫学研究情報管理学・教授)

12月

CPT-11、L-OHP、fluoropyrimidine抵抗性の転移性結腸・直腸癌患者におけるcetuximabの多施設共同第II相試験

Lenz H-J, et al., J Clin Oncol. 2006; 24(30): 4914-4921

  Cetuximabは上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor; EGFR)を阻害するIgG1モノクローナル抗体であり、下流のシグナル伝達を遮断することにより、腫瘍細胞の増殖・血管新生・遠隔臓器への転移を抑制し、アポトーシスを促進する。前臨床試験におけるcetuximabの最も印象的な作用は、 抗癌剤との組み合わせにおいて認められた。329例のCPT-11抵抗性転移性結腸・直腸癌(CRC)患者を対象としたcetuximab+CPT-11群とcetuximab単独群の無作為化比較試験では、RRおよび無憎悪期間(TTP)における併用療法の優越性が報告されている。しかし、報告時にL-OHPが米国で認可されておらず、世界的な治療戦略に取り入れられていなかったため、L-OHPを視野に入れた情報はいまだない。
  本試験はCPT-11、L-OHP、fluoropyrimidine抵抗性の転移性CRC患者においてcetuximabの抗腫瘍活性、安全性、薬物動態学、免疫動態学、薬物作用の生物学的決定因子を評価する。
  CPT-11、L-OHP、fluoropyrimidine抵抗性かつ免疫染色で確認したEGFR陽性のCRC患者(18歳以上、ECOGのPSが0または1、推定余命3ヵ月以上)で登録前4週間以内に手術、放射線療法、化学療法、臨床試験薬投与を受けておらず、EGFR標的薬剤・マウス抗体・キメラ抗体未投与の者346例を対象とした。Cetuximab 400mg/m2を120分かけて静注し、その後週1回250mg/m2を60分かけて静注した。初回投与の前にdiphenhydramine 50mgを静注した。化学療法に対する治療反応性はindependent review committee(IRC)もまた評価した。また、血液検体を回収し、cetuximabの薬物動態を検討、抗cetuximab抗体検出を行い、EGFR チロシンキナーゼドメインの遺伝子配列と遺伝子コピー数も評価した。毒性評価はNCI-CTCのversion 2.0に基づいて行った。
  研究グループの評価によるRRは12.4%(95%CI 9.1 〜16.4)、IRCの評価では11.6%(95%CI 8.4 〜16.4)であった。PFSの中央値は1.4ヵ月(95%CI 1.4 〜2.1)、生存期間は6.6ヵ月(95%CI 5.6 〜7.6)であった。座瘡様発疹が82.9%の患者にみられ、グレード3の発疹は4.9%に観察された。化学療法に対する治療反応性と生存は、発疹の重症度と強く相関した。対照的に、臨床効果はEGFRの免疫染色との関連がみられなかった。EGFR チロシンキナーゼドメインの変異は発見されなかった。EGFR 遺伝子コピー数は化学療法に対する治療反応性やPFSとの関連はみられなかったが生存との関連が示された(p=0.03)。
  本試験により、cetuximabはCPT-11、L-OHP、fluoropyrimidine抵抗性のCRCに対して抗腫瘍活性を示し、かつ忍容性にも優れていることが示された。Cetuximabに対する反応に不可欠と思われるEGFR キナーゼドメインの変異およびEGFR 遺伝子増幅は、本試験においてはいずれも認められなかった。

考察

First、second line、そしてcetuximab?

  すでにGrotheyらのmeta-analysisで報告されているようにCPT-11、L-OHP、LV/5-FUを使い切ることが進行大腸癌の生存を延長することは明らかである。また、first lineにおいてmolecular targeted agentであるbevacizumabを併用することがcytotoxic drug treatmentの効果を増強してさらに生存の延長をもたらすことが確認されている。
  このように薬剤の開発と併用療法の考案などにより進行大腸癌の予後は急速に改善してきている。しかし、これらの薬剤を使い切ってもなお治療の可能性のある症例に対して、いかなる薬剤を選択するかは重大な問題である。一方でde Gramontらの報告(MOSAIC study)のように大腸癌術後補助療法にFOLFOX 4を用いることでPFSの改善が有意であるということから、この投与が標準化し世界に広がることは間違いない。この場合もっとも問題となるのは術後補助療法後に再発した場合である。このときにはmolecular targeted agentsが使用されることになるが、これまでCPT-11 refractoryを対象とする試験は存在するものの、L-OHPをも含めた前治療の存在は規定されていなかった。第II相試験でありながら300例を越す症例集積を得た本試験は、それら標準薬剤に抵抗性の症例にcetuximab を投与することが有効であり生存を延長する可能性があるという価値ある結果である。
  いまだわが国ではこれら大腸癌に有効であるといわれるmolecular targeted agentsが認可されていないため、臨床現場に提供することはかなわない。いつものごとく認可の遅れの原因が奈辺にあるかは不明であるが、cetuximabが他のmolecular targeted agentsと同じく非常に高価で保険での治療の継続を困難にさせること、わが国での臨床試験の遅れなどいろいろと取りざたされている。少なくとも近い将来、これらの薬剤を使用できないことを強く非難される時代がわが国にも到来するであろう。
  特にcetuximabは本編の内容から標準薬剤にrefractoryである症例にも10%を超える有効性と、PFSは短いながら生存期間が6.6ヵ月を示していることから今後の臨床試験でのkey drugの1つとして第III相試験に組み込まれることは確実である。本試験が示したようにEGFRの免疫染色が臨床効果と関連しないという知見は、これまでのいくつかの報告と一致している。皮肉なことに発疹が臨床効果と強く関連していることは、今後、効果と有害事象の兼ね合いの点から解決すべき事項であろう。このことは治療前の煩雑な検査をしなくてすむことにより時間と費用を浪費しなくてよいということにはなる。もちろんEGFR判定の検査キットなどの不備もあることは考えられ、研究者にはより個別の治療と高い有効性を得るために、精度の高い検査法を検討することが義務として残る。

監訳・コメント: 三沢市立三沢病院 坂田 優(院長)

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