進行胃癌に対するfirst line治療としてのdocetaxel+CDDP+5-FU療法とCDDP/5-FU療法を比較した第III相試験:V325研究グループの報告
Van Cutsem E, et al., J Clin Oncol. 2006; 24(31): 4991-4997
本試験はCDDP+5-FU療法(CF)にdocetaxelを加えた併用療法(DCF)が、進行胃癌患者の無増悪生存期間(TTP)・全生存期間(OS)・奏効率(RR)を改善しうるかを検討した、多国籍多施設共同無作為第II/III相試験(V325)である。第II相試験では、docetaxelを含む2種類の多剤併用療法のうちいずれを第III相試験におけるCF療法の比較対象とするかを検討し、DCF療法を選択した。
16ヵ国72施設より1999年11月〜2003年1月にリクルートした未治療の進行胃癌患者(18歳以上、組織学的に証明された胃癌あるいは食道・胃接合部腺癌、WHO基準で測定可能な転移巣もしくは1ヵ所以上の測定可能なリンパ節転移を伴う局所再発、KarnofskyのPS 70以上、緩和のための化学療法は未実施、放射線療法より6週間以上経過、手術より3週間以上経過、十分な肝・腎・血液機能)445例を、無作為にDCF群(221例)とCF群(224例)に割り付けた。投与は以下のようにして行った。DCF群:day 1にdocetaxel 75mg/m2を1時間かけて静注後、CDDP 75mg/m2を1〜3時間かけて静注、続いて5-FU 750mg/m2/日を5日間持続点滴静注。これを3週間ごとに施行。CF群:day 1にCDDP 100mg/m2を同様に投与後、5-FU 1,000mg/m2/日を5日間持続点滴静注。これを4週間ごとに施行。主要評価項目はTTPとし、副次評価項目はOSおよびRR、毒性はカナダ国立癌研究所の基準(version 1.0)に基づいて評価した。
試験の結果、TTP中央値はCF群(3.7ヵ月)と比較してDCF群(5.6ヵ月)で有意に延長した(リスク低下 32%、log-rank検定 p<0.001)。OS中央値もCF群(8.6ヵ月)と比較してDCF群(9.2ヵ月)で有意に延長した(リスク低下23%、log-rank検定 p=0.02)。2年生存率はCF群で9%、DCF群で18%であった。RRはCF群(25%)と比較してDCF群(37%)で有意に高かった(χ2検定p=0.01)。グレード3〜4の治療関連有害事象はDCF群では69%に、CF群では59%に発現した。主要なグレード3〜4の有害事象は以下の通りであった(DCF群 vs CF群)。好中球減少:82% vs 57%、口内炎:21% vs 27%、下痢:19% vs 8%、傾眠:19% vs 14%。感染や発熱を伴う好中球減少はCF群に比較してDCF群で発現率が高かった(DCF vs CF;29% vs 12%)。
胃癌患者において、CF療法にdocetaxelを加えたDCF療法は、TTP・生存率・RRを有意に高めたが有害事象も増加させた。DCF療法あるいは他の有効な薬剤との併用療法と同様に、docetaxelを取り入れたレジメンは、未治療の進行胃癌患者において新しい治療選択肢である。
DCF療法は世界に受け入れられるか?
本試験は、進行胃癌に対して世界的に最も汎用されているCF療法と比較してDCF療法がTTP、OSともに有意な延長を初めて示した点で大きな意義を持つ。Docetaxelの有意な上乗せ効果が示され、本剤の胃癌に対する有効性が証明されたことは異論ない。しかしながら、DCF療法はgrade3〜4の毒性発現が69%と極めて高い点、MSTが9.2ヵ月と従来の各種併用療法の報告と大差なくかつCFに対する生存延長が1ヵ月以内などの点で問題があり、リスク/ベネフィットの観点から世界的に多くの臨床医がその受け入れに躊躇しているのが現状である。本試験ではDCF群で二次治療に移行した比率は32%と低く、この点が十分にOSが伸びていない原因とも考えられる。低い二次治療移行率が果たしてDCFの高度な毒性によるのか、各国の医療・保険体制や経済状況によるものか不明であるが、いずれにしても2007年に最終解析結果が得られるわが国での複数の大規模比較試験では、MST12ヵ月を超える新しい標準治療(単剤あるいは2剤併用)が創出されることが予想されており、国内でのDCF療法の普及は限られたものになると思われる。
海外でもDCF療法の受け入れは進んでいなかったが、2006年に米国FDAの承認を得たことから、変化の兆しがあり、用量やスケジュールの変更をした上で受け入れようとする動きもでてきている。特に米国での次の新薬承認申請試験ではDCFがコントロールとなることが予想される。しかし、すでに胃癌においてもbevacizumab、cetuximab、trastuzumabなどの分子標的治療薬の開発が世界的に進行しており、将来的には大腸癌同様cytotoxic 3剤の併用よりも2剤+分子標的薬の併用パターンが主流になるのではないかと予想している。
監訳・コメント: 国立がんセンター東病院 大津 敦(内視鏡部・部長)