論文紹介 | 監修:京都大学大学院 医学研究科 坂本純一(疫学研究情報管理学・教授)

3月

結腸・直腸癌患者に対する、CD55に類似した抗イディオタイプ抗体105AD7のワクチンとしての接種:そのRandomized Trial

Ullenhag GJ, et al., Clin Cancer Res. 2006; 12(24): 7389-7396

  105AD7は、CD55のアミノ酸配列および構造と相同性を有するヒトモノクローナル抗イディオタイプ抗体である。CD55は補体より細胞を保護する膜結合型糖蛋白質であり、補体に曝されているすべての細胞に低レベルで発現しているが、いくつかの腫瘍細胞においては発現量が増加しており、結腸・直腸癌細胞の80%に過剰発現が認められる。このため、CD55を腫瘍細胞に対する特異的免疫療法の標的にすることが可能となる。本臨床試験は、原発腫瘍切除予定の結腸・直腸癌患者に対する105AD7ワクチン接種の忍容性と効果を検討するものである。
  2000年6月〜2002年5月、結腸・直腸癌患者67例(平均年齢66歳、WHOのPS 0〜2、28例が結腸に、39例が直腸に原発巣を有する)を無作為に免疫(105AD7±BCG/alum接種)群(n=45)と無処置群(対照群、n=22)に割り付けた。免疫群は、100μgの105AD7を水酸化アルミニウムとともに筋注で接種する者(n=28)、100μgの105AD7を初回接種のみBCGとともに皮内注射で接種、その後は水酸化アルミニウムとともに接種する者(n=17)に分けた。最初のワクチン接種は術前の登録日(その後手術が未実施の場合その2週間後に再度接種)に行い、術後は術後3、6、12週間後、その後は3ヵ月ごとに最長24週間後まで接種した。術後補助化学療法を実施した者については、その間はワクチン接種を休止した。患者は登録時、手術時、術後3、6、12週間の接種時に回収した血液検体より、ELISPOTアッセイ(emzyme-limked immunospot)、増殖アッセイ、Luminexサイトカインアッセイで免疫反応を解析した。
  重篤な有害事象は報告されなかった。ELISPOTアッセイの結果において、解析した患者32例のうち14例(44%)はワクチン接種に反応したと見なされた。また、増殖アッセイにおいて40例のうち17例(43%)でT細胞増殖反応が誘導された。Luminex解析では、腫瘍壊死因子α (TNF-α )と顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)の免疫反応が105AD7ワクチンに対して6例/14例で、自己抗原CD55に対しても7例/13例(69%)でみられた。
  105AD7ワクチン接種に対する免疫反応は、ELISPOTと増殖アッセイによって解析した患者の多くで誘導された。ELISPOTと増殖アッセイ間に相関がみられないのは2つの方法が異なるT細胞反応を測定したことを反映している可能性があり、ポテンシャルのある癌ワクチンを評価する際に複数の測定系を用いることの重要性を示唆している。抗イディオタイプ抗体とCD55抗原双方に対する免疫反応が測定されたことは、癌治療の標的としてのCD55の有用性を支持するものである。

考察

癌ワクチンとしての105AD7接種によって誘起される免疫応答

  筆者らは、結腸・直腸癌患者に癌ワクチンとして105AD7を接種すると高率にそれに対する免疫応答が誘起されることを示した。
  ワクチン接種の途中で手術により腫瘍量(つまり、癌抗原などの抗原量)が減少するとワクチンに対する免疫応答が一時的に低下すること、ワクチン接種の途中に化学療法がなされてもワクチンに対する免疫応答は残ること、ELISPOTアッセイと増殖アッセイの間に解離がみられること(つまり、それら2つのアッセイで重要な働きをするリンパ球の種類が異なると予想されること)、などが興味深い。さらに言えば、抗原(105AD7あるいはCD55)特異的Tリンパ球を誘導できるそれらの抗原由来のHLA class I あるいは class II拘束性ペプチドを用いて研究を行えば、坦癌患者の免疫応答能に関するより深い理解に結びつくと考えられる。
  臨床効果の検討を主目的とした研究ではないが、「ワクチンに対するT細胞の反応が強い患者の再発率が少ない」(ただし決定的なものでないが)という記載があり、今後の臨床効果に関する研究が待たれる。本研究のような、手術後の再発予防のセッティングが癌ワクチンの機能が最も発揮できる場であると考える。

監訳・コメント: 大阪大学大学院医学系研究科 岡 芳弘
(呼吸器・免疫アレルギー内科学・講師)

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