論文紹介 | 監修:京都大学大学院 医学研究科 坂本純一(疫学研究情報管理学・教授)

4月

ステージII/III結腸癌における術後補助化学療法:経口LV/UFT療法と静注LV/5-FU療法のQOLの比較:NSABP C-06の結果

Kopec JA, et al., J Clin Oncol.2007; 25(4): 424-430

   NSABP C-06では原発性結腸腺癌切除後のステージII/IIIの結腸癌患者に対して、静注LV/5-FU療法と経口LV/UFT療法を比較し、DFSとOSで同等の効果を有するという結果がすでに報告されている(Lembersky BC, et al., J Clin Oncol.2006; 24; 2059-2064)。本論文では、この試験での健康関連QOL(HRQL)、症状、Convenience of Care(COC)スコアを比較検討した結果を報告する。
  1997年2月〜1999年3月、原発性結腸腺癌切除後のステージIIおよびIIIの結腸癌患者1,608例のうち803例をLV/5-FU群に、805例をLV/UFT群に無作為に割り付けた。LV/5-FU群はRoswell Park regimenに基づきLV 500mg/m2を2時間かけて静注し、LV静注開始1時間後に5-FU 500mg/m2を急速静注した。これを6週連続投与、2週休薬の1サイクル8週とし、3サイクル施行した。LV/UFT群はLV 90mg/日とUFT 300mg/m2/日をともに1日3回に分けて経口投与し、これを28日間連続投与、7日間休薬の1サイクル5週とし、5サイクル施行した。
  HRQLはFunctional Assesment of Cancer Therapy-Colorectal調査票(FACT-C)、Short Form-36 Vitality Scale(SF-36)およびQuality of Life Rating Scale(QLRS)を用い、試験開始時と化学療法の期間中に1回、および1年後に評価した。また、症状はSymptom Distress Scale(SDS)とtreatment-specific Symptom Checklist(SCL)を用いて、COCはECOGの改訂版Burden of Care form(未発表)を用いて試験開始時のday 1および1年後に評価した。群間比較の統計解析には、患者背景とベースラインスコアで調整した線形混合効果モデルを用いた。
  トータルFACT-Cスコア、結腸がん特異的・身体性・精神性・社会性・活動性に関するサブスケールでのFACT-Cスコア、あるいはQLRSスコアに関して、両群間で差は認められなかった。LV/UFT群で有意に高いCOCスコアが報告された(p<0.0001)。化学療法の期間中、SF-36活力サブスケールスコアに関してはLV/5-FU群で(p=0.005)、SDSスコアとSCLスコアに関してはLV/UFT群で、差はわずかであるものの、統計学的には有意に高かった(ともにp=0.007)。
  結腸癌の術後補助化学療法として、標準的な静注LV/5-FU療法に比べ、経口LV/UFT療法がより利便性に優れていると患者は感じている。両レジメとも忍容性は良好で、HRQLについては差が認められなかった。

考察

結腸癌術後補助療法経口療法と静注療法の比較:利便性には有意差、しかしQOLには差なし

  1,608例のステージII/III結腸癌患者を対象に、投与方法が異なる静注と経口の化学療法について、QOLと症状そして利便性の観点から比較した研究報告である。これらは、patient-reported outcomesと呼ばれ、医療者ではなく患者本人の主観に基づく評価である。
  がん化学療法の臨床試験では患者の視点を治療法評価に加味するという観点から、重要なエンドポイントの1つとしてよく用いられている。しかしながら、患者の主観に基づくため、研究者が自前で開発したような調査票(調査方法)では、その科学的妥当性は一般に認められず、国際的に標準化された方法・手順でバリデートされている必要がある。
  本研究では、FACTやSF-36といった国際標準の調査票が用いられている。利便性に関して経口剤群が優れていた結果は期待通りであった。一方で、活力や抑うつ感などのQOLや症状スケールの群間差については、統計的有意であるが慎重な解釈が必要である。サンプルサイズが大きいため、わずかな差でも統計的には有意になることがあるためである。
  臨床的に有意な差かどうかの検討、いわゆる‘臨床的最小有効差’をどのように定義するかは現在も議論が続いている。さらに、試験で得られた結果を患者にどのようにフィードバックするかは今後の研究課題である。

監訳・コメント: 名古屋大学大学院医学系研究科 森田 智視
(健康社会学専攻社会生命科学・助教授)

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