論文紹介 | 監修:京都大学大学院 医学研究科 坂本純一(疫学研究情報管理学・教授)

5月

ミスマッチ修復機構欠損による結腸・直腸癌の検出における異なるマイクロサテライト・マーカーパネルの成績と比較

Xicola RM, et al., J Natl Cancer Inst 2007; 99(3): 244-252

  DNAミスマッチ修復機構の欠損が原因の結腸・直腸癌では、マイクロサテライト不安定性(MSI)が認められる。この検出用には、National Cancer Institute(NCI)により推奨されたマーカーパネル(NCIパネル)があり、マイクロサテライト配列である2種のモノヌクレオチド(BAT26、BAT25)と3種のダイヌクレオチド(D2S123、D5S346、D17S250)の計5種の反復配列から成る。このうち変異が2つ以上あれば高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)、変異が1つならば低頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-L)、変異がなければマイクロサテライト安定性(MSS)に分類される。同様に5種類のモノヌクレオチド反復配列(BAT26、BAT25、NR21、NR22、NR24)から成るpentaplexパネルは、NCIパネルと比べてMSI-Hの検出においてより感度が高いことが示唆されている。本研究は、これら2種類のマーカーパネルの成績を比較し、ミスマッチ修復機構の欠損による結腸・直腸癌患者の検出において、最も簡便な診断方法を確立することを目的としている。
 2000年11月から2001年10月にかけて、スペインの20施設において新規に結腸・直腸癌と診断された患者1,058例を登録した。このうち新鮮凍結腫瘍組織から得た531例のDNAについてはNCIパネルを、パラフィン包埋とした腫瘍組織から得た527例のDNAについてはpentaplexパネルをそれぞれ使用して、MSIを検討した。新鮮凍結腫瘍組織のMSIについては、pentaplexパネルを使用したクロスオーバー試験でも評価を行った。ミスマッチ修復機構の欠損については、腫瘍組織でのミスマッチ修復蛋白(MLH1、MSH2、MSH6、PMS2)の発現の有無を免疫組織化学的に解析することによって判定した。各マーカーパネルの感度と特異度は、ミスマッチ修復蛋白発現の欠損の有無との照合によって算出した。すべての統計解析は両側検定で実施した。
 NCIパネルでは感度76.5%(95%CI 61〜92%)、陽性的中率65.0%(95%CI 49〜81%)で、pentaplexパネルでは各々95.8%(95%CI 89〜103%)、88.5%(95%CI 79〜98%)であった。一方、モノヌクレオチド反復配列マーカーのBAT26とNR24のみから成るパネルでは、pentaplexパネルと同じ的中率が得られた。
 Pentaplexパネルは、NCIパネルに比較してミスマッチ修復欠損結腸・直腸癌の検出に優れていた。さらに、BAT26およびNR24の不安定性の同時評価のみであっても、pentaplexパネルの使用と同程度の有効性であることが示唆された。

考察

ミスマッチ修復機構欠損を有する大腸癌を効率的に選別できるマイクロサテライトマーカーセットの検討

  DNAミスマッチ修復機構の異常による大腸癌の腫瘍組織においては、通常、マイクロサテライト不安定性(microsatellite instability : MSI)が認められる。近年、このタイプの大腸癌について予後が良好である、また5-FU系抗癌剤に感受性が低いなどといった報告が多くなされ、このMSI解析による予後予測や抗癌剤選択などの臨床応用が期待されている。このMSI解析は、いくつかのマイクロサテライトマーカーによって行うが、用いるマーカーの種類、数によって結果が異なり、現在、米国のNCIによって提唱されたマーカーセット(NCIパネル)が一応の標準ともなっている。今回の研究は、そのNCIパネルと5種のモノヌクレオチドマーカーから成るpentaplexパネルとの効率を比較検討したもので、結論として後者の有用性、さらにその中の2つのマーカーのみでも同様の有効性があったとしている。今後の臨床応用上も有用な報告であると考えられるが、解析に用いた検体の違い(凍結標本、パラフィン切片)などの問題もあり、今後、症例を増やした再度の検証などが必要であろう。

監訳・コメント: 兵庫医科大学 冨田 尚裕
(外科学講座・教授)

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