論文紹介 | 監修:京都大学大学院 医学研究科 坂本純一(疫学研究情報管理学・教授)

7月

進行食道癌におけるTXLの週1回1時間静注

Ilson DH, et al., Ann Oncol. 2007; 18(5): 898-902

 本試験は、進行食道癌治療におけるpaclitaxel(TXL)の週1回投与療法の有効性評価を主な目的とした多施設共同試験である。
 23の参加施設より1998年1月〜2000年4月にかけて、進行食道癌患者(組織学的に確認された切除不能転移性あるいは局所再発の腺癌・扁平上皮癌、食道胃接合部に病変が及ぶ場合も対象に含める、18歳以上、ECOGのPS 0〜2、推定余命3ヵ月以上、造血・肝・腎機能正常)を102例登録した。投与方法は以下の通りである。前投与として30〜60分前にdexamethasone 20mg、cimetidine 300mg(あるいは同等のH2ブロッカー)、diphenhydramine hydrochloride 50mgを静注後、TXL 80mg/m2 を初期投与量として1時間かけて静注投与した(週1回、4週1サイクル)。主要評価項目はRRである。血小板減少(5万以下)や顆粒球数減少(800以下)、あるいはグレード3〜4の倦怠感、筋肉痛、関節痛がみられた場合はTXLを10mg/m2 減量した。毒性による2週間以上の休薬があれば試験から除外した。毒性はNCI-CTCに基づいて評価した。
 102例の被験者の95例が毒性プロファイル評価可能であり、86例が2サイクル以上完遂し、抗腫瘍効果が評価可能であった。63例(66%)が腺癌、32例(34%)が扁平上皮癌であった。65例(68%)に化学療法歴がなかった。実施サイクルの中間値は3サイクルであった(1〜11サイクル)。PRは86例中11例に認められた(13%、95%CI 6〜20%)。化学療法歴のない被験者65例では、10例にPRが認められた(15%、95%CI 6〜24%)。そのうち、腺癌でのPRは16%(50例中8例)、扁平上皮癌でのPRは13%(15例中2例)であった。化学療法歴を有する被験者に関しては21例中1例にPRが認められた(5%)。CRは化学療法歴の有無にかかわらず認められなかった。奏効期間の中央値は172日、PFSの中央値は93日、生存期間中央値は274日であった。忍容性は良好であり、主にグレード1〜2の有害事象が報告された。血液毒性は軽度で、グレード3〜4の好中球減少を示した被験者は5%のみであった。神経毒性も軽度で主にグレード1であった。
 TXLの週1回投与療法は食道癌において、十分ではないが有効性が示された。本試験において他療法と近似する生存期間中央値、適度な抗腫瘍活性、わずかな有害事象という結果は、TXLの週1回投与療法が多剤併用療法に耐えられない患者への代替療法として選択肢の1つとなりうることを示唆している。

考察

多剤併用か単剤か

 TXLの週1回投与療法は、乳癌治療において3週1回投与と比べ有用であったことから我が国でも特に胃癌治療に応用されてきた。奏効率は高くないものの、特にsecond lineとして生存期間の延長を期待して頻用されている。しかしながら消化器癌では至適投与量決定を含めた臨床試験が行われてこなかったため、その有用性と位置づけが曖昧であった。
 本試験では、決して奏効率は十分でないにしてもSD症例が多いことと、他の化学療法レジメと比べても遜色ない奏効期間と生存期間が得られたことから、大量投与でなくとも分割投与による有害事象の軽減を図りつつ治療を行うことの有用性を示すことができた。
 食道扁平上皮癌での使用経験は我が国では少ないものの、今後放射線治療後の患者や、他剤との併用、さらには分子標的薬との併用において有害事象を減らしつつ効果を期待できる可能性が示唆された。分割投与とはいえ、有害事象が起こりうることを十分念頭に入れ、有効性の期待できる患者さんへの投与法の開発・研究が期待される。

監訳・コメント: 広島大学原爆放射線医科学研究所 吉田 和弘
(腫瘍外科学・教授)
2007年8月1日より岐阜大学腫瘍外科教授)

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