結腸・直腸癌の腹腔鏡補助下切除術に関する無作為化試験:英国MRC CLASICC試験グループによる3年次報告
Jayne DG, et al., J Clin Oncol.2007; 25(21): 3061-3068
本試験は英国MRC CLASICC試験グループにより、結腸・直腸癌患者に対する腹腔鏡補助下切除術後の長期成績を通常の開腹切除術と比較するために実施された、多施設共同無作為化試験である。
1996年7月〜2002年6月に、英国の27施設より794例の結腸・直腸癌患者[右・左・S状結腸切除術および前方切除術(AR)・腹会陰式直腸切除術(APR)適用(Lancet 365:1718-1726, 2005に記載)]を組み入れた。被験者を腹腔鏡補助下切除群(腹腔鏡群)と開腹切除群(開腹群)に2:1比で無作為に割り付けた(腹腔鏡群526例、開腹群268例)。
主要評価項目(p<0.05を有意とする)は3年OS、3年DFS、3年局所再発率、副次評価項目(p<0.01を有意とする)は3年遠隔再発率、3年切開創/ポート部再発率およびQOLであり、intension-to-treat解析により評価した。QOLはEORTCのQLQ-C30とQLQ-CR38に基づき、術前および術後2週間、3・6・18・36ヵ月の時点で評価した。被験者の追跡調査は、試験開始後1年目は1・3ヵ月時、その後3ヵ月ごと、2年目は4ヵ月ごと、3年目以降は6ヵ月ごとにCEA値、結腸内視鏡サーベイランス、局所・遠隔再発検出のための定期的な放射線画像診断を実施した。
追跡期間中央値は、全被験者において36.8ヵ月、生存者において49.5ヵ月であった。総体的に長期成績において両群間での有意差は認められなかった。3年OSは腹腔鏡群が開腹群よりも1.8%高かったが優位ではなかった(95%CI −5.2〜8.8%;p=0.55)。3年DFS、局所再発率、遠隔再発率および切開創/ポート部再発率に関しては639例(腹腔鏡群428例、開腹群211例)に対して解析した。腹腔鏡群の開腹群に対する差は、3年DFSが−1.4%(95%CI −9.5〜6.7%;p=0.70)、局所再発率が−0.8%(95%CI −5.7〜4.2%;p=0.76)、遠隔再発率が−0.9%(95%CI −7.4〜5.5%;p=0.74)、切開創/ポート部再発率が−2.0%(95%CI −4.0〜0.02%;p=0.12)となり、両群間での差は認められなかった。QOLに関しては696例を解析し、これも両群間での差は認められなかった(全評価項目において、p>0.01)。腹腔鏡群のAR施行患者において切除周縁部の再発率が高いことが認められたが、これは局所再発率の増加と解釈されるものではない。
本試験で、結腸癌への腹腔鏡補助下切除術は、抗腫瘍効果およびQOL 保持の点で開腹切除術と同程度の有効性が認められた。直腸癌患者に対する長期成績は、AR・APR施行患者においても同様であり、これらの患者における腹腔鏡補助下切除術の継続を支持するものである。
大腸癌に対する腹腔鏡下手術は標準術式になり得るか?
近年、国内外で、大腸癌に対する腹腔鏡下手術の有用性を評価する目的で、従来の標準治療である開腹手術を対照に多施設共同ランダム化比較試験が行われている。これまでに、スペイン、香港、米国COSTグループ、イタリアの研究グループが、根治性において腹腔鏡下手術が開腹手術と遜色のないことを報告している。
今回の英国MRC CLASICCグループの報告も、3年間の経過観察において、全生存率、無再発生存率、局所再発率に差がないという同様の結果であった。ただし直腸癌に対する前方切除術では、切除周縁部の癌遺残に十分注意する必要が示されている。またEORTCの評価方法を用いたQOL調査でも、両群間に差が認められていない。
今回の報告は、大腸癌に対する腹腔鏡下手術の普及を支持するものであるが、QOL評価においては、その評価方法を含めて、さらなる研究成果の蓄積が必要である。いずれにせよ、わが国では、間もなく登録が終了する日本の多施設共同ランダム化比較試験(JCOG0404)の結果が待ち望まれる。
監訳・コメント:大分大学医学部 北野 正剛(第1外科学教室・教授)