論文紹介 | 監修:京都大学大学院 医学研究科 坂本純一(疫学研究情報管理学・教授)

10月

ステージIII結腸癌に対する補助療法としてのLV/5-FU+CPT-11はLV/5-FUに比較して優位性はない:CALGB 89803の結果

Saltz LB, et al., J Clin Oncol. 2007; 25(23): 3456-3461

 過去に実施された無作為化試験において、転移性結腸・直腸癌患者にsecond lineでCPT-11を投与した結果、また、first lineでLV/5-FU療法とCPT-11を併用した結果、生存期間の延長が報告されている。本試験開始時には、LV/5-FU療法がステージIII結腸癌に対する標準的療法であったため、本試験では治癒切除したステージIII結腸癌患者の補助療法としてLV/5-FU+CPT-11の週1回bolus投与療法の効果と安全性を検討した。
 1999年4月〜2001年4月に登録されたステージIII(すべてのT、N1〜2、M0)の根治切除後の結腸癌患者1,264例(直腸癌患者は除外、18歳以上、ZubrodのPS 0〜2、術前・術後の画像病理検査にて遠隔転移巣なし、放射線療法および化学療法歴なし、造血・肝・腎機能正常)をLV/5-FU群(n=629)とLV/5-FU+CPT-11群(n=635)に無作為に割り付けた。投与法は以下の通りである。LV/5-FU群:Roswell Park Regimenに従い、LV 500mg/m2 を2時間かけて点滴静注、LV投与開始1時間後にFU 500mg/m2 をbolus静注する。6週連続投薬・2週休薬を1サイクルとし、4サイクル施行。LV/5-FU+CPT-11群:CPT-11 125mg/m2 を90分かけて点滴静注、LV 20mg/m2 をbolus静注してからFU 500mg/m2 をbolus静注で投与した。4週連続投薬・2週休薬を1サイクルとし、5サイクル施行。主要評価項目はOSとDFSである。毒性はNCI-CTCのversion 2.0に従って評価した。身体所見検査は各サイクルのday1と治療終了から6週間後に実施した。治療終了後の追跡は、初めの2年間は3ヵ月ごと、次の2年間は4ヵ月ごと、その後の3年間は年1回実施した(計7年間)。
 両群間で患者特性および予後変数に関して差がなかった。OSとDFSのそれぞれに両群間で有意差は認められなかった。3年次と5年次のOSおよびDFSの確率は、LV/5-FU :LV/5-FU+CPT-11で示すと、OSが、0.81:0.80(3年次)、0.71:0.68(5年次)、DFSが0.69:0.66(3年次)、0.61:0.59(5年次)であった。毒性評価の結果、毒性発現率(致死毒性を含む)はLV/5-FU+CPT-11群で有意に高かった。本試験では好中球減少、下痢、悪心・嘔吐、発熱性好中球減少が最も多く発現した。グレード3〜4の下痢発現率は両群で同程度であったが、好中球減少と発熱性好中球減少の発現率はLV/5-FU+CPT-11群で有意に高かった。
 ステージIII結腸癌に対しLV/5-FU週1回bolus投与法とCPT-11を併用する療法では、OSおよびDFSの改善が認められず、毒性(致死・非致死)を増加させる結果となった。
本試験により、転移癌治療で認められた優位性が、術後補助療法に必ずしも応用できるわけではなく、補助療法について改めて無作為化試験を実施し検証する必要性が示された。

考察

大腸癌における術後補助化学療法として標準治療は何か?

 新規抗癌剤、分子標的薬の登場により、進行再発大腸癌に対する抗癌剤化学療法の進歩はめざましいものがある。術後補助療法に関してはLV/5-FU療法が施行され、日本においてLV/5-FU、つまりRPMI法は術後補助療法として、また進行再発大腸癌症例にも使用されてきた。一方、アメリカでは切除不能進行再発大腸癌に対し、LV/5-FU+CPT-11(以下IFL療法)はLV/5-FUと比較し良好な効果がSaltzらにより報告されてから切除不能進行再発大腸癌の標準治療となった。よって術後補助療法としても当初標準治療とされたLV/5-FUよりIFLが生存率、無再発生存期間において優位であるかどうか検討された。しかしながら、その結果は期待に反し優位ではなかった。つまり切除不能進行再発大腸癌に対する優位性が、術後補助療法に必ずしも応用できるわけではなかった。
 最近ではFOLFOXやFOLFIRI、またはこれらに分子標的薬であるベバシズマブを追加する抗癌剤治療が切除不能進行大腸癌に対しての標準治療に代わってきた。この論文ではIFLは術後補助療法として優位ではなかったが、最近MOSAIC試験の6年追跡調査結果がでた。これはstage II/III結腸癌に対する術後FOLFOX 4の有用性、つまり3年DFSの良好な成績は5年DFSにおいても維持され、6年生存率はstage III結腸癌においてLV/5-FU よりFOLFOX 4で有意に優れていることが明らかにされた。
 術後補助化学療法についてはいまだ混沌としており、今後新規抗癌剤やFU系経口剤も含め、早急に標準治療を確立すべきであると考えられる。

監訳・コメント:岐阜大学医学部 高橋 孝夫(腫瘍外科・助教)

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