論文紹介 | 監修:京都大学大学院 医学研究科 坂本純一(疫学研究情報管理学・教授)

11月

転移性結腸・直腸癌のfirst line治療におけるCPT-11+fluoropyrimidineの投与方法(持続静注、bolus静注あるいは経口)に関する無作為化第III相比較試験:BICC-C試験

Fuchs CS, et al., J Clin Oncol. 2007; 25(30): 4779-4786

 本試験は転移性結腸・直腸癌のfirst line治療において、CPT-11に異なる投与方法でfluoropyrimidineを併用するレジメの安全性および有用性を比較検討した無作為化第III相試験である。
 2003年2月〜2004年3月(第1期)に、RECIST基準による転移性結腸・直腸癌患者430例(18歳以上、ECOGのPS 0〜1、転移巣への化学療法歴なし)を、非盲検下に持続静注のFOLFIRI群(144例)、CPT-11+bolus FU/LV (mIFL群)(141例)、CPT-11+経口capecitabine (CapeIRI群)(145例)に無作為割り付けした。本試験は二重盲検下にcelecoxib 400mg錠の1日2回連日投与をプラセボ対照にて比較する3×2 factorial designを採ったが、celecoxibに関しては別所で報告する。その後、2004年4月〜12月(第2期)は、米国FDAによるbevacizumab(Bev)の承認を受けてBevを併用するプロトコールに修正した。新規117例をFOLFIRI+Bev群(57例)、mIFL+Bev群(60例)に無作為割り付けしたが、CapeIRI群は第1期の毒性の強さと、Bevとの併用エビデンスが不十分との理由から実施しなかった。
 投与方法を示す。FOLFIRI群:day 1にCPT-11 180mg/m2 を90分かけて点滴静注、LV 400mg/m2 を2時間かけて点滴静注、5-FU 400mg/m2 をbolus静注、その後5-FU 2,400mg/m2 を46時間持続静注(2週間ごと)。mIFL群:day 1、8にCPT-11 125mg/m2 を90分かけて点滴静注、LV 20mg/m2 をbolus静注、5-FU 500mg/m2 をbolus静注(3週間ごと)。CapeIRI群:CPT-11 250mg/m2 をday 1に90分かけて点滴静注、capecitabine 1,000mg/m2 をday 1〜14に1日2回経口投与(3週間ごと)。BevはFOLFIRIに5mg/kg、mIFLに7.5mg/kgを追加し各サイクルのday 1に静注投与。主要評価項目はPFS、副次評価項目はOS、RR、毒性とした。毒性評価はNCI-CTC vesion 2.0に基づいた。
 第1期の追跡期間中央値は34ヵ月。PFS中央値はFOLFIRI群7.6ヵ月に対して、mIFL群5.9ヵ月(p=0.004)およびCapeIRI群5.8ヵ月(p=0.015)であり、OS中央値はFOLFIRI群23.1ヵ月に対して、mIFL群17.6ヵ月(p=0.09)およびCapeIRI群18.9ヵ月(p=0.27)であったことから、FOLFIRI群で抗腫瘍効果が強かった。RRは47.2%、43.3%および38.6%であり有意差はなかった。CapeIRI群ではグレード3以上の悪心、嘔吐、下痢、脱水症状、手足症候群が高発現した。
第2期の追跡期間中央値は22.6ヵ月。PFS中央値はFOLFIRI+Bev群11.2ヵ月、mIFL +Bev群8.3ヵ月であり有意差はなかった。OS中央値はFOLFIRI+Bev群がいまだ中央値に達していないものの、mIFL+Bev群の19.2ヵ月に比較して有意に優れていた(p=0.007)。RRは 57.9% vs 53.3%で有意差はなかった。FOLFIRI+Bev群は特にグレード3以上の高血圧発現率が著しく高かった(12.5% vs 1.7%)。
 FOLFIRI 群およびFOLFIRI+Bev群はその他の群に比較して有効性が高く、比較的安全性も高い。転移性結腸・直腸癌のfirst line治療においてCPT-11ベースのレジメを実施する際の5-FUの投与方法は、持続静注が望ましい。

考察

転移性結腸・直腸癌に対する化学療法でfirst lineに適している治療は何か?

 新規抗癌剤、分子標的薬の登場により、転移性結腸・直腸癌に対する治療の進歩はめざましいものがある。同時に複雑な組み合わせから、より効果的な治療法を選択することが非常に重要となりつつある。転移性結腸・直腸癌の治療の変遷としては、LV/5-FUから発展し、現在ではFOLFOX、FOLFIRIあるいはIFLを標準治療とし、さらには分子標的薬剤であるbevacizumabを加える方法が標準治療となりつつある。一方、分子標的薬と経口抗癌剤との組み合わせによる加療とその治療効果については知見が少なく、今後近い将来において課題となると思われる。
 本臨床試験は、FOLFIRI、IFLおよびCPT-11+capecitabine、さらにはFOLFIRI、IFLにbevacizumabを加えた場合の治療効果、副作用について検討されており、FOLFIRIおよびFOLFIRI+bevacizumabの優位性が示された。本臨床試験では、CPT-11を軸に臨床試験がデザインされており、FOLFIRIとともに広く施行されているFOLFOXが治療法として選ばれていないが、転移性結腸・直腸癌に対し、first lineとなりうる治療法を示唆している点が重要と言える。
 今後も新規薬剤の登場と共に治療法は変遷を重ねるものと予想されるが、それぞれの薬剤の位置付けが確立される適正な臨床試験が積み重ねられることが期待される。

監訳・コメント:鳥取大学医学部 堅野 国幸(病態制御外科学分野・助教)

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