論文紹介 | 監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

2月

76〜80歳の転移性結腸・直腸癌患者に対するFOLFOX療法:OPTIMOX1試験の探索的コホート

Figer A, et al., Cancer 2007; 110(12): 2666-2671

 近年、高齢結腸・直腸癌患者の増加に伴い、その化学療法に関する系統的な評価が重要になっている。しかし、通常は75歳を超える患者は無作為化試験の対象とならない。治療効果を高齢患者と若年患者で比較した第V相試験はこれまでになく、また高齢患者の標準的な定義もなかった。本研究は、切除不能転移性結腸・直腸癌で転移巣の治療歴がない患者(WHO PS 0〜2)に対するstop-and-go方式のFOLFOX7レジメンをFOLFOX4と比較したOPTIMOX1試験における、高齢患者の探索的コホートの評価である。
 76〜80歳の患者37例をFOLFOX4群(A群、20例)とFOLFOX7群(B群、17例)に無作為に割り付け、奏効率、PFS、OS、安全性などの評価項目を各群間で、および75歳以下の患者群(583例)と比較した。投与は以下の方法で、両群とも増悪、許容不能な毒性の発現、または患者が中止を希望するまで継続した。A群:LV 200mg/m2投与後、5-FU 400mg/m2をbolus投与、600mg/m2を22時間持続静注、2日連続。L-OHP 85mg/m2をday 1投与。以上を2週毎。B群:LV 400mg/m2投与後、5-FU 2,400mg/m2を46時間持続静注、L-OHP 130mg/m2をday 1投与。これを2週毎6コース実施後、sLV5FU2による維持療法を12コース、その後FOLFOX7療法を再度6コース。
 投与コース数中央値はA群10コース、B群16コース、L-OHPについてはそれぞれ9コース、6コースであった。中央値6コースのL-OHP投与を受けた患者のdose intensityはA群89%、B群77%であり、75歳以下の群とほぼ同じであった。
 奏効率は59.5%(A群65%、B群53%)で、75歳以下の群の59%と同等であった。PFS中央値は9.0ヵ月(A群7.6ヵ月、B群9.4ヵ月)、OS中央値は20.7ヵ月(A群14.0ヵ月、B群25.1ヵ月)で、これらも75歳以下の群(PFS 9.0ヵ月、OS 20.2ヵ月)と差がなかった。  グレード3/4の主な毒性は好中球減少(A群55%、B群23.6%)と感覚神経毒性(A群20%、B群23.5%)であった。グレード3/4の毒性の発現率を高齢患者全例と75歳以下の群で比較すると、全毒性65% vs 48%(p=0.06)、好中球減少41% vs 24%(p=0.06)、神経毒性22% vs 11%(p=0.03)で、いずれも高齢患者で多かった。しかし、忍容性については管理可能であり、毒性による死亡例はなかった。
 結論として、本試験は対象患者が少数で、一般健康状態が良好であるという条件はあったものの、FOLFOX4およびstop-and-go方式のFOLFOX7は76歳以上の高齢患者においても75歳以下の患者と同等の高い効果を示した。今回の結果から、FOLFOX療法をこのような高齢患者に適用することが可能であると考えられる。また、FOLFOX7レジメンはFOLFOX4と比較して簡便性と忍容性に優れており、高齢患者を対象とする場合の重要な利点となる。

考察

高齢者大腸癌に対するFOLFOX療法の有効性と安全性は?

 平均寿命の延長とともに高齢者が増加している。併存症が少なくPSの良好な大腸癌症例に対しては化学療法が行われていると思われるが、高齢者大腸癌患者に対する化学療法の報告はあまりなく、化学療法を行うかどうか判断に苦しむ場合もあると思われる。
 76〜80歳の患者を対象にFOLFOX4とFOLFOX7(stop-and-go)が行われた。比較的良好な症例が対象と思われるが、対象症例37例中、重篤な心血管障害を持った患者が4例、PS2の患者も6例含まれている。有害事象は好中球減少、神経毒性が75歳以下群に比べ多かったが死亡症例はなく、L-OHPの総投与量は75歳以下の群と同等であった。また有効性も同等であった。
 すべての高齢者に対し化学療法を行えるとは思えないが、患者の全身状態を考慮すれば安全にFOLFOX療法を行えると思われた。この報告は症例数は少ないが、高齢者に対するFOLFOX療法を行う際の参考になると考えられた。80歳以上の大腸癌患者に対する検討も興味があるところである。

監訳・コメント:国立病院機構 呉医療センター・中国がんセンター 富永 春海
(外科・医長)

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